安保法制の違憲性
明白な憲法違反である
弁護士 平松真二郎
1 2015年9月19日、参議院本会議における強行採決によって、「安保」法制(「平和安全法制整備法案」「国際平和支援法案」)が可決されました。
「安保」法制は、憲法違反の内容を含んでおり、およそ効力を持たないことは「憲法は国の最高法規であって、その条規に反する法律……の全部又は一部は、その効力を有しない」とする憲法98条1項の規定から明らかです。
2 「安保」法制の目玉は、集団的自衛権の行使です。しかし、集団的自衛権は、同盟国への攻撃に対して、同盟国と共同して攻撃に対処するために行使されます。これは、我が国に対する攻撃がされていない状態で、我が国が同盟国の防衛の掛け声の下で武力行使に参加することを意味しています。
このような我が国の防衛と無関係に我が国が武力を行使するという「集団的自衛権の行使」自体が、恒久平和主義を謳う憲法前文の理念や「国際紛争を解決する手段として」の戦争、「武力の行使」、「武力による威嚇」を禁じる憲法9条1項に反していることは明らかです。
3 「安保」法制では、武力行使が容認される場合の要件として、いわゆる新3要件が掲げられています。しかし、その要件に含まれる「我が国と密接な関係にある他国」とはどこか、あるいは「存立危機武力攻撃」とはどういう状況のことか、「(攻撃を)排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使」とはどこまでなのか、要件自体が極めて漠然不明確といわざるを得ません。武力行使の可否を判断する者の思惑が入り込んで解釈される恐れが高く、何の歯止めにもならない規定であって、武力行使を禁じる9条1項に抵触するものといわざるを得ません。
4 「安保」法制では、従来の「周辺事態」が「重要影響事態」に変わっています。日本の領土・領海の「周辺」に法文上限定されていましたが、今回の「重要影響事態」には地理的制限がなくなりました。ときの首相が「重要影響事態」に該当すると判断すれば、「現に戦闘行為が行われている現場」以外であれば、地球上のどこでも米国に対する「支援活動」を行うことができます。さらに、従来禁じられてきた「弾薬の提供」も可能とされました。こうした「支援活動」は、米国の「武力行使」と一体化した活動にほかならず、我が国の「武力行使」と評価されますので、このような「支援活動」自体が憲法9条1項違反になります。
5 「安保」法制では、PKO活動における、いわゆる「駆け付け警護」のための武器使用が解禁されています。
自衛隊をあえて攻撃の現場に赴かせ、武器使用を容認するものです。他国のPKO部隊を攻撃する者に対して、自衛隊が武器を使用することは、武器使用の応酬から戦闘行為、さらには武力行使に発展する恐れがあります。
特に、治安掃討作戦は、実質的には軍事力による治安確保のための活動ですから、憲法9条1項が禁ずる武力行使に該当することになります。
国会の議論の整理
引き続き"戦争法制"廃止の運動を
弁護士 田村優介
1 戦争法制への道のり
2012年12月に成立した第二次安倍政権は、第一次政権以来の「戦後レジームからの脱却」路線を推進し、2013年、国家安全保障会議設置法と特定秘密保護法が相次いで強行裁決されました。
2014年5月15日、安保法制懇が報告書を発表し、安倍首相は、「集団的自衛権」の限定的容認を含む「切れ目のない対応を可能とする国内法整備の作業を進める」と表明しました。政府・与党協議を経て、7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」が閣議決定されました。ここで、集団的自衛権行使の容認、自衛隊海外派兵、グレーゾーン事態の3分野での法整備が言及されました。
2014年12月の衆議院解散総選挙で与党が3分の2を超える議席を確保し、第三次安倍政権が成立しました。
2015年5月15日、戦争法制(安保法制 平和安全法制整備法案・国際平和支援法案)が国会に提出されました。
2 衆議院段階での議論
法案を提出した政府・与党は、安保法制懇以来1年の検討を経ていること、2014年総選挙で審判を受けていることなどを言い立て、「衆議院審議は80数時間で充分」という姿勢でした。踏み込んだ答弁は回避し、問題が知れ渡る以前に成立させる目論見でした。しかし、その目論見は世論の反発によりついえ、9月27日まで95日の長期延長の末、強行採決で衆議院を突破せざるを得ませんでした。
3 参議院段階での議論
参議院段階での政府・自民党は、成立を最優先にした「低姿勢の成立策」に転じ、「中国の脅威」などを押し出し、国民の懸念・不安を払拭するための質問と答弁を繰り返しました。沖縄・辺野古埋立工事の「一か月凍結」や「首相談話」への「侵略」等の挿入などの「妥協」を行い、各種の重要法案成立を先送りにする「犠牲」も意に介しませんでした。こうした一連の動きは、反対運動の盛り上がりが与党に対し一定の動揺を与えたものといえます。
参議院段階では、以下のように戦争法制の危険性がいっそう明らかになりました。
①兵站支援が大量破壊兵器の提供を排除していないことなど、無限定性や危険性がいっそう露呈したこと。
②「邦人が乗った米艦防護」では「邦人は要件にならず」となり、「ホルムズ海峡の機雷封鎖は現実的想定でない」と認めざるを得ず、法律を作る必要性(立法事実)が崩壊したこと。
③法律成立を「先取り」した「統幕長訪米会談録」や「統幕本部文書」等によって、自衛隊制服幹部の暴走が白日のもとにさらされたこと。
4 これから
法律は成立してしまいましたが、反対運動の盛り上がりは一定の成果を上げたと言えます。引き続き全力で取り組むことが重要です。