ロシア軍のウクライナ侵攻と日本の軍備増強と核武装で平和は守れるか 

弁護士 津田 二郎

 ロシア軍がウクライナの領土に侵攻し武力行動を開始しました。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナからの独立を求めるウクライナ東部地域の独立を承認し、武力侵攻はこれらの地域との集団的自衛権の行使であって自衛のための戦争である旨の主張をしています。

 これに対し、国連事務総長がロシアによるウクライナ東部地域の独立承認は、国連憲章違反である旨の発言をしているほか、各国首脳や多くの市民からロシアによるウクライナ侵攻を厳しく批判する声が次々にあがっています。

 国連憲章では、「主権の尊重」「領土の保全」「武力行使の禁止」などがうたわれており、他国の領土の独立を同意なく承認することやそれに伴う武力の行使は禁じられています。ロシアによるウクライナ侵攻は国連憲章に反しています。

 日本には憲法9条があります。憲法9条は、たとえ「自衛戦争」の名であっても日本が他国を侵略することはないこと、戦力を持たないことでそれを保障したことを明らかにした条文です。どのような指導者が政権についたとしても、決して日本が現在のロシアのような立場に立つことはないことを表明している点に意味があります。

 これに対し、「日本も憲法9条を改憲して軍備増強ができるようにすべき」だとか、「同盟国と核兵器を持ち合うようにできるよう検討すべき」などという議論があります。

 確かに世界の軍事費ランキング(軍事費、武器輸入額、武器輸出額等の総計額。2020年)を調べてみますと、ロシアは世界4位、ウクライナは34位で、ロシアはウクライナの10倍以上の軍事力を有していることが分かります(日本は9位)。しかし一方で、世界第1位のアメリカはロシアのさらに11倍、第2位の中国もロシアの4倍の軍事力を持っています。

 軍事力で侵攻されるかどうかが決まるなら、軍事力で圧倒しているアメリカが世界統一していそうな勢いですが現実にはそうなっていません。また他国に攻められない軍事力をもつことを目指すとすると日本の約5倍の軍事力を持つ中国や約15倍のアメリカを目指すということになりますが、現実的ではないと思います。

 ウクライナが1994年に核兵器を廃棄したこと、ロシアが核兵器を配備していることからアメリカも手出しできないという指摘もあるところです。確かに現在、アメリカなど西側諸国はロシアの核兵器の存在に行動を抑止されているとも思えます。ところがロシアは、アメリカなど西側の核兵器の存在に抑止されることなく国連憲章違反の行動に出ていることになります。核抑止論が破綻していることに注目すべきです。

 日本は第二次世界大戦の敗戦国です。そのため国連憲章のいわゆる「敵国条項」が適用される結果、日本の軍備増強や核武装が「敵国の新たな侵略」としてむしろ他国からの干渉、介入を許す結果をもたらしかねません。

 この点について、国連軍縮担当の事務次長中満泉さんは「ウクライナが1994年に核兵器を放棄しなければ今日のような状況にはならなかったとの発言が非専門家の間で散見されますが、これは神話です。ウクライナに配備されていた核弾頭は、旧式のもので安全に維持できるものではなく、オペレーショナルなコントロールもウクライナにはありませんでした」 、「核兵器保持によってこのような紛争が防止できず、かえって自国・地域そして世界にとっても危険な状況になっていたと思われます。核軍縮への努力を進めること、国連憲章に基づく秩序を回復し強化することは、安全保障のために必要なことです」とコメントしています。

 今日本が行うべきは、憲法9条の改憲による再軍備でも核武装でもなく、国連憲章に基づく国際秩序を回復するために、あらゆる外交努力を行うこと、核軍縮を進めるため核兵器禁止条約に加入することだと思います。