城北法律事務所 ニュース No.54(2006.8.1)

目次

特集 戦争をする国にしないために 国際貢献なら9条が1番!

教育基本法「改正」、共謀罪、国民投票法案は、憲法を変えるための地続き法案です。

「憲法9条を絶対変えるな」という「9条の会」が日本中に広がり、町内会で、学校で、職場で、5000を超える会が生まれています。

日本を二度と再び戦争する国にはしたくないという草の根の運動がどんどん広がっています。


- 教育基本法「改正」問題 - 子どもたちのココロを縛らないで

弁護士 津田二郎

1 W杯と「愛国心」

6月に開幕したサッカーW杯。睡眠時間を削って熱狂した方も多いことでしょう。そのW杯では,試合前,両チームの選手達は必ず整列して直立不動の姿勢で国歌を斉唱していました。

この光景を評価して,「愛国心」を涵養すること(自然に養い育てること)が必要だと主張する人達がいます。では「愛国心」とはどういうものなのでしょうか?

そういえば日本代表が豪州に敗れた試合の観戦後,笑顔を見せていた他の客に「愛国心がないのか」と暴行をふるったという事件がありました。

2 通信簿と「愛国心」

教育基本法改正案では,教育の目的に「我が国と郷土を愛する」という項目をつけ加えることが提案されています。この条項が「愛国心」として問題になっています。

この問題は,教育の「目的」に愛国心を盛り込むことによって,教育内容に国家が介入し,その到達点を評価対象とすることにあります。

つまり「愛国心」の内容を国が決めて,それに適う者には通信簿で高評価を与え,足りない者には「指導」して身につけるよう努力させるというのです。

たとえば,みなさんは先程のサッカー選手に対して,「愛国心」の評価をどうつけますか? 5ですか? 4ですか?

小泉首相も国会答弁で「なかなか子どもを評価するのは難しい。率直にいって」と愛国心を評価対象とすることの誤りを実質上認めています。

3 「国際貢献」と「愛国心」

しかも「愛国心」は,単に国を愛する心情にとどまりません。「国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」目的も新設することも提案されていることからすれば,自衛隊の海外派兵よって国際貢献することを是とする態度,自ら海外派兵に協力する態度を求めていることがはっきりしてきます。


三浦綾子さんの小説「銃口」では,主人公の同僚の教師はこう言っています。

「日本はどこへ行くんかなぁ。矢内原教授は,講演会でね,『日本は理想を失った。こういう日本は一度葬って下さい。再び新しい国として生まれ変わってくるために』と言ったんだとさ。こりゃあ愛国心だよね。戦争をおっぱじめるだけが,愛国心じゃないんだ。みんなそれぞれの考え方の中で,国を思っているんだよ。燃えるような思いでね。自分の生まれ育った国を,愛さない人間がいるものか。」

愛国心は他人からあれこれ評価されるものではないのです。


国民の目・耳・口を塞ぐ共謀罪 共謀罪ってなに?

弁護士 松田耕平

「共謀罪」とは、二人以上の者がある特定の犯罪の「共謀」つまり「合意(相談)」をした段階で既に犯罪と捉え、処罰しようとする法律です。


現在の刑法では、殺人罪等のごく一部の重大犯罪に限って、犯罪の準備(凶器の準備など予備行為)を行った者を処罰するとされていますが、共謀罪は、それよりも一歩進んで準備のさらに前段階である共謀(相談)をもって処罰するものです。

このような法律が提案された背景には、国境を越える組織犯罪集団によるテロ、麻薬密売や人身売買など、国際的な協力体制を作って対処しなければならない犯罪に対応する必要性が指摘されています。


では、共謀罪の制定に賛成できるかといえば、単純にそうとはいえません。与党が提出したこの法律案には、大きな問題点が含まれているからです。

与党案によると、共謀罪が適用される対象犯罪は殺人罪や薬物犯罪だけでなく、威力業務妨害罪や同意堕胎罪など600以上にも及ぶ極めて広範な内容となっています。

これは、「共謀罪」の名の下に、マンションの建設反対運動や労働組合による労働運動など、およそ「組織犯罪」とは縁のない行為も処罰されてしまう恐れがあるということを意味します


また、捜査手法の広範化に伴う人権侵害の危険性の増加も問題です。捜査機関が対象となる集団の共謀自体を把握し、記録するためには「意思の連絡」を行う場所や通信手段をおさえなければならず、そのための捜査手段として盗聴や内部通告者が必要不可欠だからです。

このほかにも共謀罪には多数の問題点が指摘されており、決して他人事とはいえません。

今後の国会の動きに注意する必要があるといえます。


「戦争する国」にするための国民投票法案
憲法改正手続法案(国民投票法案)って必要なの?

弁護士 田場暁生

5月26日、与党(自民・公明党)、民主党は改憲手続法案である憲法改正国民投票法案をそれぞれ衆議院に提出しました。6月の国会では成立に至りませんでしたが、秋の国会での成否が重大問題となってきます。

この法案については、公務員・教育者に対する罰則付きの運動規制があること(学校で教師が憲法9条の大切さを生徒に教えることなどが「地位利用」の運動として制限される危険があります)、改憲派に有利な憲法改正案の周知広報の仕組みをとっていることなど多くの問題点があります。しかし、一番重要なことは、どのような「改正」を目的としてこの法案を制定するのか、ということです。

自民党は、昨年11月、「新憲法草案」を発表しました。これは、現行憲法の前文に記載されている不戦の決意や9条2項の戦力不保持の規定を削除し、新たに「自衛軍」を創設すること、自衛軍が「国際社会の平和と安全」のために「国際協調」して軍事行動をとることを認めています。

ここからもわかるように、今議論されている憲法「改正」は、日本が正規の軍隊を持ち、イラクに対する侵略戦争のようなアメリカの先制攻撃に積極的に参加することを一番の目的としているのです

また、同草案は国家権力を制限し、国民の権利自由を守るものが憲法であるという近代憲法の「常識」を投げ捨て、公益(国益)と公の秩序(国の秩序)を国民の人権に優先させるなど、国家ではなく国民を縛るものが憲法であるという考え方に貫かれています。民主党、公明党も、自民党と競うように憲法の「改正」、とりわけ9条改憲のために改憲手続法案の制定を図るという点では大差はありません。改憲手続法案の要否は、なぜこの法案の成立が議論されているのかということに立ち戻って考える必要があるのです。