城北法律事務所 ニュース No.60(2009.8.1)


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派遣村で考えたこと

弁護士 菊池 紘

たとえば、39歳の女性の相談。

「福島で2月末に解雇された。3月上旬に上京してきたのは福島では求人が少ないから。住まいはなく、マクドナルドやネットカフェで夜をすごしている。食事もマックで」


50件の相談内容は一覧にまとめられている。ほかの相談者の住所はというと、南池袋公園、芸術劇場前、池袋西口公園、池袋駅構内なども。この社会の異常さを考えさせられた。

トヨタ、日産、キャノンなどは、口を開けば「サブプライムローン、リーマンショック以来の100年に一度の事態だから派遣切りはやむをえない」と言う。

しかし、こうした時に備えて派遣・短期雇用を歯止めなく広げてきたのは、彼ら自身ではないか。1995年に「新しい時代の日本的経営」として、労働者を3類型に分け、その過半数を雇用柔軟型グループとして、不安定な非正規雇用を一気に拡大したのは、大企業とその利益代表となった諸政党である。共産党と社民党以外の諸党は構造改革を競い合い、すべての雇用からはじき出される人々を、本人の「自己責任」として冷たく突き放してきた。


この15年の政治は、お互いが支えあうことを否定し、あらゆる責任を個人に押しつけようとしてきた。この殺伐とし寒々とした状況をどう転換するか、そのための共同が求められている。

城北が呼びかけた池袋派遣村には豊島区の幅広い人々が手弁当で集まり、社会的な連帯を示した。

池袋駅東口では歌ごえの人々がすばらしい歌で、人々の支えあいを訴えたのだ。


憲法違反の恒久派兵法~
海賊対処法の危険な正体

弁護士 上野 格

政府与党は、海賊対処法案を、衆議院での再議決強行により成立させました。

海賊対処法は、「外交貿易の重要度が高い」日本の経済的利益の擁護のみならず「海上における公共の安全と秩序の維持」をも目的に掲げ(第1条)、保護対象となる船舶も一切限定していません(第2条)。また同法は、逃走または抵抗する不審船への危害射撃、さらには停船命令に従わず船舶に接近する不審船に対する船体射撃をも認めています(第8条)。また、わが国の内水または領海(海上保安庁法)、周辺の公海(臨検法)に限定されていた船体射撃が、いつ何処においても可能となります。自身が攻撃されていない状況での相手への先制攻撃が現実のものとなれば、自衛隊は、積極的・能動的に武力行使を仕かける軍隊へと完全に変質を遂げることになります。

ソマリアに派遣された2隻の護衛艦「さざなみ」「さみだれ」を含め、日本の護衛艦は速射砲や多銃身機関砲を標準装備として備えています。これらを用いた不審船への砲撃は、小型船の沈没と船員の殺傷を招くものであり、憲法9条1項の禁じる「武力による威嚇あるいは武力のるいは武力の行使」に当たります。さらに同法では、派兵の地域も期間も限定されていない上、派兵について国会での承認は不要であり、緊急の場合には首相の承認がなくとも防衛大臣の判断で派兵が可能となるのです。海賊派兵法は、現在行われているソマリア派兵を追認するだけではなく、自衛隊が、恒久的に世界中何処でも武力を行使できることを可能とする、憲法違反の海外派兵法なのです。

そもそも、ソマリアでは1991年の中央政府の崩壊以降、氏族間の内戦が長期化しており、多くの国民が難民化し極度の貧困状態にあります。こうした中で、元軍人、元漁民、技術者等が構成員となって、海賊行為が行われていると報道されています。海賊問題は、根本的には、ソマリア国自体の政治的安定(国内対立勢力の和平合意の推進など)、国際機関やNGO等をつうじたソマリア国民への直接の生活支援等により、初めて解決可能となるものです。国際海事機関の主催による、ソマリア周辺海域海賊対策地域会合への協力を強化する等、周辺国を中心とした地域的枠組みによる解決を支援することが重要です。日本を始めアジア諸国には、マラッカ海峡やロンボク海峡等での海賊対策について地域間協力によって解決に成功した経験をもっています。

すでに「連合海軍」による掃討作戦が展開されているにもかかわらず、海賊行為が減少せず、海域も拡大しています。軍事的な対応には限界があるのです。いま日本に求められているのは、憲法9条を踏みにじる海賊派兵法の強行ではなく、平和憲法に沿った、ソマリア海賊問題への真の貢献です。