城北法律事務所 ニュース No.55(2007.2.15)

「戦争のできる国」づくりにつながる
改憲手続き法案(国民投票法案)を廃案に

弁護士 大山勇一

【改憲手続き法の狙いは、「戦争のできる国」づくりにあり】
さる1月25日に通常国会が始まりました。就任以来繰り返し任期内(2012年)の改憲実現を言明してきた安倍首相は、今国会が始まるとさっそく継続審議となっていた「改憲手続き法案」(国民投票法案)の早期成立を指示しました。今国会の最大の課題は、まさに改憲につながる「改憲手続き法案」を廃案に追い込めるか否かにあります。

改憲手続き法案については、自民・公明の与党ばかりでなく民主党も独自の案を提出しています。このように与党・民主党が改憲手続きを急ぐ理由は、憲法9条に定められた平和主義の改訂にあることは明らかです。これまで政府は、戦地イラクへの自衛隊派兵、有事法制の整備、防衛庁の「省」昇格、教育基本法の改悪など、現行憲法の枠内で、次々と「戦争のできる国」づくりに邁進してきましたが、ついに9条そのものを変えてしまおうというのです。その証拠に、2005年11月に自民党が発表した「新憲法草案」では、9条2項を削除し、新たに9条の2として「自衛軍を保持する」と明記しています。

与党や民主党が提出している改憲手続き法案の目的が、「壊憲=戦争のできる国」づくりにある以上、「よりましな」改憲手続き法案をめざしてあれこれ論議するのではなく、審議されている法案の重大な問題点を明らかにして、この法案を成立させないための運動を旺盛に展開していくことが重要です。こうした運動の盛り上がりこそ改憲阻止運動にもつながっていきます。

【改憲派の情報ばかりを流し、国民的議論は抑制】
まず、与党・民主党の法案は、いずれも国費(無料広告)によるテレビ、ラジオの放送、新聞への意見広告の他に、有料でのテレビ・ラジオ放送、新聞広告について、投票直前期を除いて何ら禁止していません。フランスで国民投票での商業宣伝が禁止されているのとは大きな違いです。資金力豊かな改憲派の大政党、経団連等の経済団体や独占大企業などが金にあかして大量のテレビのスポット広告などを垂れ流すことは確実です。ちなみに、週末の日中にテレビで30秒CMを流すのに400万円から500万円、連続スポット広告は1種類で億を超えると言われています。

また、与党・民主党案では、公務員、教育者合計約460万人の人たちが国民投票運動に関与した場合に、「地位を利用した」などという曖昧な認定により規制できる仕組みとなっています。これでは、実際には改憲について話しているだけなのに、すべて「地位を利用した」「運動」とみなされかねず、公務員・教育者による積極的な議論が損なわれてしまいます。

【5人に1人の賛成で憲法が変わってしまう】
憲法改正は、国民の「過半数の賛成」で承認されるとなっています(憲法96条)。この「過半数」の意味について、与党案では「有効投票の過半数」という最も低い基準を採用しています。「有権者(投票権者)の過半数」とした場合が一番多くの賛成が必要で、次が「投票総数(有効投票と無効投票の合計)の過半数」であり、「有効投票の過半数」は賛成者が最も少なくて済みます。また、与党案では、○か?を投票用紙に書くことが必要で、「白票」は無効票。○か?の他に何か書いたもの、例えば○でなく「賛成」、?でなく「反対」と書いても無効です。このように無効票をできるだけ多くして「有効投票」の過半数のハードルを低くしようとしています。

もし与党案が成立した場合、例えば投票率が50%で、無効票が20%(有効投票率80%)だった場合、全体の20%余りの賛成で改憲案は成立することになってしまいます。憲法「改正」の重要性に照らすと、「有効投票」や「投票総数」を基準にするのではなく、改憲賛成の投票をした人が「有権者」の過半数に達した場合に改憲についての国民の承認があったとすべきですし、「最低投票率制度」(一定の投票率に達しない場合には投票の効果なし)も導入すべきです。

【国民に考える暇を与えない】
与党案も民主党案も、改憲案が国会で発議(両議院で各3分の2以上の特別多数で可決された時)されてから「60日以後180日以内」で国会が決議して定めた日を国民投票日としています。多くの論点を持ち、情報や解釈が入り乱れるに違いない改憲の是非について、国民一人ひとりがよく考え、語り合い、討論を尽くして、自分の意思を決めることが保障されなければなりません。長谷部恭男東大教授は、「国民が、短期間のうちに改正案がどのような帰結をもたらすかについて、充分に考える余裕もないまま、ワイドショー並の薄っぺらな情報に乗せられて安易な投票をする危険を避けるためには、充分な冷却、熟慮の期間をおくべき」だとして、「少なくとも2年以上の期間を置くこと」を提案しています。 いずれにせよ「60日から180日」という両法案の期間は短か過ぎて論外です。国民にまともな改憲反対運動をさせずに、大資本を駆使した宣伝によって改憲を何が何でも実現しようと狙っていることが明らかです。

【民意を歪める投票方式】
与党も民主党も、9条を変えることによって日本を「戦争のできる国」にしようというたくらみを持っていますが、そのような本音を露骨に示して、9条のみを取り出して賛否を問うとなると負けてしまうので、例えば「新しい人権」などとセットに「一括投票」を求めようと画策してきました。この点、国民からの批判によって、修正案では「憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と改められました。

しかし、「内容において関連する事項」というのは表現がきわめて抽象的で、「関連する事項」の範囲が限りなく広がるおそれがあり、やはり民意を歪めてしまう危険性が払拭されていません。

【改憲手続き法を廃案に】
これまで見てきましたとおり、与党・民主党の改憲手続き法案は、いずれも「壊憲」の目的を実現するという動機に貫かれているために、あまりに不公正でひどい内容になっていることがお分かりになったと思います。カラクリに満ちたこれらの法案の正体を「告発」し、改憲手続き法案を廃案に追い込みましょう。

「戦争のできる国」「国民の人権よりも国益優先の社会」をめざす改憲勢力の野望を、この改憲手続き法案の段階で食いとめるために、今こそ私たちが行動に立ち上がるときです。