城北法律事務所 ニュース No.61(2010.1.1)


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目次

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労働者派遣法
「派遣切り」を許さないための派遣法抜本改正を

弁護士 大山 勇一

派遣会社のアデコ株式会社から日産自動車に事務系の派遣社員として5年8カ月間派遣されていた女性労働者Uさん(29歳)は、09年9月、日産に対して正社員としての地位を確認する裁判を東京地裁に起こしました。

Uさんは、形式的には期間制限のない専門26業務の1つである「事務用機器操作業務」を担当することになっていました。しかし、実際には電話応対やコピー取り、お茶だしなどの一般業務を命じられており、本来であれば、最長でも3年の派遣期間制限を受けるものでした。したがって、日産は3年が経過する段階でUさんを正社員に雇い入れるよう申し込む義務があるのですが、その義務を果たしませんでした。

Uさんからの申告により、日産は、東京労働局から「正社員化を含めて雇用の安定化を図るように」との指導を受けましたが、逆に「Uさんの行っていた業務はなくなった」としてアデコとの派遣契約を打ち切り、Uさんの職を奪ってしまったのです。Uさんは首都圏青年ユニオンに加入して、日産と団体交渉を行おうとしましたが、日産はまったく応じようとしません。

民主党・社民党・国民新党の3党合意には派遣法の抜本改正がうたわれており、今年の通常国会で法案提出が予定されています。派遣労働者の雇用は非常に不安定で、Uさんのように労働局に違法を申告しただけで派遣の打ち切りをされてしまう例が後を絶ちません。しかも是正指導には強制力がありません。

違法派遣を根絶し、派遣社員の雇用を守るためには、派遣先が期間制限違反などの違法行為を行った場合には、派遣社員を正社員として直接雇用するよう義務付けること、脱法されることの多い専門26業種の見直しを図ること、正社員と派遣社員の待遇を均等にすることなどを盛り込んだ抜本改正が必要です。


海外派兵
海外派兵恒久法の先駆けとしての海賊対処法

弁護士 平松 真二郎

昨年春から、海上自衛隊の護衛艦が「海賊対処」名目でソマリア沖に派遣されています。その根拠である「海賊対処法」は、活動地域や期間を限定していないなど、海外派兵恒久法の先駆けといえる危険な内実を持っています。

同法は、「海上における公共の安全と秩序の維持」を目的とし、日本関係船舶に限定せず世界中のあらゆる船舶を保護対象とするなど、海自が米海軍と一体となって「世界中の海上治安維持」に乗り出すことを狙った法律なのです。

また、これまで正当防衛(緊急避難)に限り許容されていた「武器使用」が、同法では、不審船への危害射撃を容認し、さらに停船命令に従わない場合に船体射撃を容認するなど、武器をもって攻撃していない相手に対する先制攻撃をも許容しています。諸外国の軍隊の交戦規則に倣っているともいわれていますが、これも自衛隊が米軍と一体となって軍事行動を行うための地ならしのためとみるべきでしょう。

自衛隊は、積極的・能動的に武力行使を行なう「軍隊」へと完全に変貌を遂げています。いまや、その存在自体がすでに憲法9条2項が放棄したはずの「戦力」そのものなのです。護衛艦による「武器使用」は、憲法9条1項が禁じた「武力による威嚇」、「武力の行使」に当たることは明らかですので、「海賊対処法」自体は憲法に違反する法律なのです。


人権大会分科会「いま表現の自由と知る権利を考える」に参加して

弁護士 加藤 幸

今年の11月5日~6日にかけて、第52回人権擁護大会が開催されました。人権擁護大会とは、人権問題の調査と人権思想の高揚に資することを目的として、毎年秋に日弁連主催で開催されている行事で、今問題となっている人権課題について調査・研究を行い、その結果を分科会で発表・議論し、最終的には人権課題の解決に向けた宣言を採択するというものです。私は今年「いま表現の自由と知る権利を考える?自由で民主的な社会を築くために」と題する分科会の実行委員として、人権大会の準備段階から参加しました。

この分科会は、2004年以降立て続けに起きたビラの配布行為に対する刑事弾圧事件に疑問を持った実行委員が、「いま表現の自由の重要性を訴えなければ、表現の自由に対する制約は加速し、自由で民主的な社会を築くことは出来なくなってしまう」と考え、開催に至ったものです。分科会では、表現の自由の研究者である立命館大学法科大学院の市川正人教授の基調講演や各メディアを代表する方々によるパネルディスカッションなどが行われました。 ビラ配りやデモに代表される市民的表現に自由に加え、マスメディアの表現の自由や、近年発達してきた表現手段であるインターネットなども取上げ、各表現手段の現状と問題点、および全てに共通する表現の自由の重要性について討論しました。

ビラ配布をめぐる問題については、国連自由権規約委員会から改善を求められるなど国際的にも批判を浴びており、早急に改善される必要がある問題です。

数年後に再度人権大会で、表現の自由を取上げた分科会を開催することになりましたので、その時に「表現の自由をめぐる問題は改善した」と報告できるよう、今後も頑張っていきたいと思います。