城北法律事務所 ニュース No.73(2016.1.1)

目次

法律相談

遺言について(2015年9月16日セミナーより)
遺言書を作ることにはさまざまなメリットがあります

弁護士 大八木葉子

Q 遺言書を作っておくメリットは?

A 相続人間の遺産分割協議なしで遺言に基づき遺産を分けることができます。

また、あなたの財産をあなたのお考えに基づき、法定相続分によらずに分けることができます。例えば、あなたに子どもがいない場合に兄弟姉妹(あるいは甥姪)ではなく、配偶者だけに相続させることができます。家業を継ぐ子ども、障害のある子ども、特に世話になっている子どもに多い割合で相続させることもできます。

遺言により相続人以外の人に財産を分けることもできます。たとえば、あなたの長男の妻(長男の妻は相続人ではありません)に一部財産を分けたい、世話になっている施設に一部財産を分けたいといった場合です。

もっとも、これらの場合でも、遺言書を作成しておけば、どんな内容の財産分けでもできるわけではありません。遺留分の制限がありますので、注意して下さい。遺留分制度とは、被相続人(あなた)が有していた相続財産について、その一定の割合の承継を相続人に保障する制度です。この遺留分割合を侵害する遺言をしますと、後日、遺留分を侵害された相続人から減殺請求をされることがあり、これに対応しなければならないからです。

遺言で、祭祀承継者を指定しておくことなどもできます。
遺言には、これらのようにさまざまなメリットがあります。

Q 遺言書をつくるときに気を付けることは?

A 遺言の普通方式には、①自筆証書遺言②公正証書遺言③秘密証書遺言があり、それぞれの方式が法律で定められています。ここでは、よく使われる①自筆証書遺言と②公正証書遺言についてご説明します。

ご自身で作成できる①自筆証書遺言の方式は次の通りです。

  • 全文を自書(ワープロなどではなく自分で書かなければいけません)
  • 日付を自書(平成28年1月吉日ではいけません。具体的な日付を記載してください)
  • 氏名を自書
  • 押印(可能な限り実印)

そして、自筆証書遺言の場合は、遺言した方が亡くなった後家庭裁判所に検認の手続きを請求する必要もあります。

②公正証書遺言は、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口頭で述べ、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめて作成する遺言です。自筆遺言の場合よりトラブルが生じにくく、「検認」の請求も不要ですが、作成手数料が必要です。


遺産相続(2015年11月18日セミナーより)
遺産相続にトラブルはつきもの早めに弁護士に相談を

弁護士 深山麻美子

Q 遺産に銀行預金がありますが、なかなか遺産分割協議がまとまりません。自分の法定相続分だけ先に銀行から払い戻しを受けることはできますか。

A 多くの銀行は、遺産分割協議がまとまるか、代表相続人を決めて相続人全員が署名捺印し、印鑑証明書を提出しないと払い戻しになかなか応じてくれません。

ただ、預金は相続と同時に法定相続分に応じて当然分割されるとする最高裁判決が出ています。

したがって、遺産分割協議がなかなかまとまらない場合、各相続人が単独で自分の法定相続分の払い戻しを求める裁判を起こせば、払い戻しを受けられる可能性が高いです。

Q 遺産の現金についても、遺産分割協議がまとまるより先に法定相続分に応じて引き渡すように請求できますか。

A 現金については、裁判所は、遺産分割協議がまとまるまでは引き渡しを求められないとしています。

Q 遺産分割協議で、兄が貸しアパートを取得することに決まりましたが、アパートの賃料収入も兄が当然取得するのでしょうか。

A 遺産分割でお兄さんがアパートを相続すると決まったら、相続開始時からそのアパートはお兄さんの所有物になります。

とすると、相続時からのアパートから生じた賃料も、当然お兄さんが取得するとも考えられます。

しかし、裁判所は、相続開始時から遺産分割協議成立時までの賃料は、遺産とは別の財産で、各相続人が法定相続分の割合で確定的に取得するとしています。

したがって、遺産分割協議でアパートがお兄さんのものになっても、相続時から遺産分割協議成立時までの賃料は、各相続人が法定相続分の割合で権利を取得することになります。預金の利息も同様です。

Q 共同相続人のうち、兄だけが亡父の生命保険金の受取人になっていました。この生命保険金も父の遺産として分割の対象になりますか。

A 生命保険金は保険契約に基づくお兄さん固有の権利で、遺産にはならず、遺産分割協議の対象にはなりません。

ただし、生命保険金額が遺産総額と比べてかなり多額な場合は、相続人間の公平を図るために、特別受益として、生命保険金を遺産に含めるとした裁判例があります。