城北法律事務所 ニュースNo.87 2023新年号(2023.1.1)


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憲法9条を巡る議論(備えあれば憂いなし)について

弁護士 津田 二郎

ロシアのウクライナ侵攻を契機として、「憲法9条を改憲して日本も軍備を持つべき」、「攻められないためには、軍事力が必要」などの意見が声高に叫ばれています。果たして「備えあれば憂いなし」といえるのでしょうか。

そもそも戦争を遂行するために必要なものは3つあると思います。①戦争の目的②軍事力③戦争を維持するための兵站です。

1 先制攻撃は戦争を抑止しない。他国に揚げ足取りをされない施策を

① どんな戦争でも、攻める国は最初は「正義」を掲げます。「大東亜共栄圏」もそのための標語でしたし、今回のロシアもそうでした。

今日本では、「日本が攻められる前に攻められそうになったら攻撃拠点を破壊する」という「正義」が語られ始めました。「攻められる前」に他国の領土内の施設を「破壊」したら、国際法上違法な「先制攻撃」になります。もし先制攻撃すれば、相手国が反撃することは正当な権利であり、相手に「正当な」戦争を行う口実を与えます。先制攻撃は戦争を回避する手段とは全くなり得ません。

一方、他国が日本を攻めるときにいかなる「正義」があるでしょうか。もっともこの「正義」はこじつけられたりするので、こちら側に手落ちがないからといって安心はできません。また、相手の国が常識が通じない国だったら「正義」など関係なく攻めてくるかもしれません。

そうすると少なくとも日本は、「正義のための戦争」と揚げ足取りをされないように、どの国とも国交を開いて、広く外交をすることによって突然攻め込まれたりすることがないようにすべきです。揚げ足取りをされないために、病気であっても治療されない、適切に医療を受けさせないまま収容者が死亡する例が多数ある入管制度やその待遇の改善、「現代の奴隷制」といわれる実習生制度の改廃を直ちに行う必要があると思います。

2 軍事力の強化は軍事的な緊張を高めるだけ

② 軍事力(装備、兵力)がないと戦争にそもそもなりませんね。

確かに、他国が「日本は強い。攻めたらやられる」と思えば戦争は回避できそうです。ところが日本では、他国がミサイルを発射すると(そしてそれが日本の領空、領海に影響を与えていなくても)、「防衛力を強化して対抗する」といきり立ち、他の国が軍事力で日本を上回っていると聞けば「軍事費を2倍に」なんていって、他国のことを「強い」、「やられる」からと手を出さないようにしようとは思っていません。むしろ軍事力を強化する方向で議論を進めています。

それなのに日本の軍事力を見て他国だけがひるむという前提はどうして成り立ちますか。他国も日本と張り合って軍拡すれば、軍拡競争になってしまいます。

3 戦争を維持することができなければ敗戦は必至

③ 仮に戦争になれば、日本に入ってくる輸入品は制限されることが予想されます。今スーパーでは、陳列棚に海外産の商品がずらりと並んでいます。日本の食糧自給率は極めて低く目を覆うばかりです。戦争が始まったら海洋漁業や海運も深刻な打撃を受けるでしょう。燃料も輸入頼みです。

戦争になったら、兵力を維持するほど食糧を供給できますか。燃料はどうですか。兵隊に食糧を供給するために国民は相当な我慢を強いられることになりますが、それでも、戦争を維持することはできるのでしょうか。

4 軍事力の強化ではなく、平和外交による戦争の抑止を

このように①の戦争を正当化するようなことはやめた上、揚げ足取りをされかねないような国内の諸施策を改善することが必要です。そして一旦他国の攻撃にさらされたら②の軍事力をいくら強化していても、日本には③の兵站の点で致命的な欠点があるので、戦争を維持することはできません。

そうであれば、戦争回避のために②の軍事力を強化することを追い求めるのではなく、そのほかの方法を考えるべきです。そしてそれは憲法9条に基づく平和外交だと思うのです。