城北法律事務所 ニュース No.64(2011.8.1)

東日本大震災

2011年3月11日は、歴史に残る日となりました。大規模な地震と津波による死者・行方不明者は2万人を超え、建物の全半壊は21万戸以上、ピーク時の避難者は40万人以上を数えました。そして地震と津波による東京電力福島第1原発の炉心溶融と水素爆発は、広範囲の人々をふる里から追いだし、全国に放射能汚染をひろげています。地震、津波と原発の爆発は、この国の社会と政治のありかたを根本から問い直しています。


震災からの復興をめぐる二つの道

弁護士 菊池 紘

大震災からの復興をどのように進めるかをめぐり、二つの道の選択が問われています。

■いま宮城、福島、岩手の被災地で、漁の、農業の、営業の再開、また家の建て替え・補修が課題となっています。そして被災者が求めるのは、住民の意思に基づく復興です。住宅を失った人には元の土地で住宅を建てなおす権利があり、コミュニティを維持する権利があります。復旧・復興はこうした被災者の権利が基本にすえられなければなりません。

■16年前の阪神淡路大震災では、行政による「単なる復興ではなく創造的復興を」のスローガンのもと、住民不在の都市計画が強行され、神戸空港や商業施設等のハコモノ作りに終始しました。その一方、被災者は山間部の仮設住宅に追いやられ、コミュニティが破壊されたまま、数多くの孤独死や自殺が重ねられました。この悲惨をくり返してはなりません。

■ところが、民主、自民、公明が合意し、成立させた復興基本法は、一人ひとりの被災者の生活基盤を国の責任で回復するという復興の要を欠く一方、「国境を越えた社会経済活動への進展への対応」などをあげ、大企業の競争力強化のための自由貿易や規制緩和を進める狙いをあらわにしています。そして復興構想会議が6月に発表した「提言」は、民間企業参入の「水産特区」の創設、財源として「基幹税を中心に多角的な検討」をおこなうことをもり込み、被災者にも負担を強いる消費税増税に道を開くものになっています。

■そして、宮城県知事は、財界の意向そのままの「震災復興計画」を発表し、「漁港の集約化」「水産業復興特区」「農地の大規模化と企業の参入」をいっています。こうした上からの「復興」に反対する宮城の人々は「復旧・復興支援みやぎ県民センター」を結成し、被災者の権利を基本にすえ、国と自治体の責任による生活・事業・生産の再建を求め、行動を広げています。

■ 住民本位・人間本位の復旧・復興を支える全国の幅広い支援が求められています。


建設的な原発の議論を

弁護士 田場暁生

3月11日、未曾有の大地震と津波が東日本を襲いました。この間日本弁護士連合会は被災地に弁護士を大量に派遣し被災された方々の法律相談や債務免除等の法制度の提言などに取り組んできました。当事務所の弁護士も被災地に足を運び、実態調査や法律相談などを行っています。

そして原発事故。日本そして世界の未来についてどう考えるのか、私たち一人一人が突きつけられています。原発の存置については、「原発がなければ電気が安定供給できない。今の経済や生活が維持できない」、「原発の本質的危険性が露呈した今、原発は(即時もしくは段階的にかはともかく)廃止すべきだ」等様々な意見が飛び交っています。ドイツやイタリアでは国民投票が行われ、原発に頼らない国や経済作りに舵が切られました。自然エネルギーの活用についても議論も本格的になりはじめていますが、どのデータや意見を信用していいのかの判断もなかなか難しいものがあります。

私はアメリカのロースクールに留学し、2010年の秋に当事務所に復帰しました。アメリカでは自由闊達に議論をたたかわせることの重要性を痛感しました。自分の考えをしっかり表現することによって個人、そして個人の総体であるところの国家も鍛えられる、ということも実感しました。オバマ大統領のように「コトバの力」を感じられるようなスピーチは残念ながら今の日本の首相には期待できません。自由に自分の意見を主張し、建設的な批判を交わしあうことは日本では簡単なことではありません。それは私も含めて少なからず「間違ったこと」「異端とされる意見」を言うことについての躊躇を持っているからだと思います。「KY」などという多数に同調を強いるかのような気味の悪い言葉が氾濫したのもその表れではないでしょうか。

原発をめぐる論点は明らかになってきています。今後国民的に建設的な議論が行われるかどうか、それが原発問題に限らず日本の未来にとって試金石となる、そう思っています。