城北法律事務所 ニュース No.71(2015.1.1)


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【特集 安倍政権が進める危険な「憲法破壊」】
「解釈改憲」という名の憲法破壊
ルールを変えずにルールを破って戦争参加へ

弁護士 津田二郎

1 安倍首相の閣議決定による「集団的自衛権行使容認」

安倍首相は、昨年7月1日、憲法9条についての従来の政府見解を変更し、集団的自衛権の行使は憲法によって禁止されていないとする閣議決定を行いました。これによって日本は、同盟国であるアメリカと日本国外で戦争行為を行うことに制約がなくなりますが、法律等による具体的な手当は2015年の通常国会で行われる見通しです(2014年12月3日執筆段階。以下同じ)。

2 集団的自衛権行使容認でどう変わる

「集団的自衛権の行使」とは、端的には「よその国の戦争に参加すること」です。日本が直接攻撃されたときに反撃することは、「個別的自衛権」の行使として、これまでの政府見解でも認められていました。

集団的自衛権の行使を容認することはアメリカの戦争に日本が参加し一緒に戦争する、ということです。もちろん戦場はアメリカ本土に限られず中東などアメリカが利権を守るために戦争を行う世界中のどこでも、ということです。

さらに重要なのは、秘密保護法とあわせて、国による情報統制が行われるほか、国民の権利・自由が大きく制限されるようになるということです。

3 憲法は国民の権利・自由を守るルールブック

ところで、「憲法」ってなんでしょう。憲法とは、国を治める者が最低限守らなくてはならないルールを定めた「ルールブック」です。ルール違反は無効とされており(憲法98条1項)、ルール違反によって国民の権利・自由が侵されない仕組みになっています。これは昔から権力をもった者は、みんな権力を濫用して国民の自由、権利を好き放題に制限してきたという教訓から導かれた人類の経験の結晶です。

4 「解釈改憲」というルール破り

憲法も不都合があれば改正することは可能です。その重要性から国会の特別多数による発議を経て、国民投票で多数を得ることが条件です(憲法96条)。真っ当な変更なら正々堂々と改正手続きに従って「ルール変更」を行えばいいのです。

ところが憲法の条文はそのまま変えずに、これまでの政府見解を変えることによって憲法の意味するところを変更してしまうのが「解釈改憲」です。安倍首相が閣議決定で行った解釈の変更はまさにこれです。今までできなかったことを、自分の判断でできることにするのですから、解釈改憲は「ルール破り」そのものです。

5 「不断の努力」を今こそ

憲法は、定めてあるだけで守られるなんて考えていません。「この憲法が、国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって保持しなければならない」(憲法12条)のです。今まさに安倍政権の暴走に対する私達の「不断の努力」が試されているのです。


「秘密保護法」ついに施行
憲法違反の法律を許さない

弁護士 種田和敏

2013年12月6日、国民の大きな批判の声を無視し、秘密保護法が国会で可決されました。それから約1年、この間にも、幅広い層から廃案・施行中止の声がありました。それにもかかわらず、2014年12月10日、予定どおり秘密保護法は施行(本格運用)されることとなりました。

秘密保護法の問題点は、憲法との関係を中心に、多々指摘されています。

まず、行政機関が恣意的に秘密を指定することができ、かつ、その秘密を永遠に秘密のままにしておくことができる点で、知る権利や国民主権、報道の自由との関係で大きな問題があります。また、秘密にアクセスしようとする市民も含めて重罰に処する旨の規定がある点で、知る権利や報道の自由について萎縮効果が懸念されます。

次に、秘密保護法違反の刑事裁判については、問題とされている秘密が被告人や弁護人、傍聴人に明らかにされずに手続が進む点で、裁判を受ける権利や適正手続の保障、令状主義、裁判の公開原則を定めた憲法の諸規定に違反することが明らかです。自分がなぜ逮捕され、どのような秘密との関係で裁判にかけられているのかがわからない状態では、自らの権利を守ることはできませんし、日々の生活も安心しておくることはできません。これでは、戦前の暗黒裁判と何ら変わりがありません。また、公務員だけでなく、広く一般市民が処罰の対象となるおそれがある点で、やはり主権者である国民にとって国政を監視する行動に大きな萎縮効果があることは重大な問題です。

さらに、秘密を扱う公務員や民間人の身辺調査をする制度(適正評価制度)との関係では、プライバシー権の侵害が問題となります。適正評価の対象が、公務員ばかりでなく、対象となる公務員の家族や秘密に関係する民間人(たとえばヘリコプターの部品を製造する電気会社の職員など)に及ぶことに注意しなければなりません。イラク戦争のときに、自衛隊の情報保全隊という部隊が一般市民の情報を収集していたことについて、仙台で裁判が提起され、第一審の仙台地方裁判所では自衛隊による情報収集行為の違法性が認定され、現在、第二審の仙台高等裁判所に係属しています。秘密保護法施行後は、こうした国による市民の監視行動が秘密裏に増加することが懸念され、それ自体が表現の自由や知る権利に対する萎縮効果も看過できないものといえます。

以上に述べた点だけでも、秘密保護法は、憲法に保障された国民の権利や自由を脅かし、国民主権や三権分立など憲法が定めた国の根幹を揺るがす、憲法違反の悪法にほかなりません。そして、秘密保護法は、私たちの日常生活に密接に関わるものであり、ひいては、この国が再び戦争ができる国になる一要素を構成するものです。

憲法違反の法律、戦争立法を許してはいけません。施行後も、声をあげ続けることが重要です。ともにがんばりましょう。