城北法律事務所 ニュース No.71(2015.1.1)

【法律相談】
相続 (2014年10月29日セミナーより)
相続・遺言の注意点

弁護士 工藤裕之

1 相続についての一般的な説明

相続は、誰にでも必ず起きる「人の死亡」という事実のみによって当然に発生します。死亡した人を「被相続人」といいますが、被相続人の死亡により、その財産(これを遺産といいます)は、一定の親族関係にある人(相続人といいます)が当然に承継することになります。民法は、相続人と法定相続分について定めており、①被相続人の配偶者は常に相続人になります。また、②被相続人の子も相続人になります。子がいない場合には、③被相続人の父母等、父母等が亡くなっている場合には、④被相続人の兄弟姉妹等が、この順番で、順次、相続人になります。紙面の関係で、あまり詳しく書けませんが、民法の定める法定相続分は、①②の場合、配偶者2分の1、子は全員で合計2分の1になります。

なお、遺産には、土地、建物、預貯金などのプラスの財産だけでなく、マイナスの財産である負債も含まれますので、注意が必要です。この場合には相続放棄を考える必要も出てきます。

2 遺産分割について

そして、相続人全員で、遺産をどのように分けるか協議することになります。その際、ある相続人が、全部を自分だけが取得することに固執するなどして、協議がまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停ないし審判の申立てを行わざるを得ません。その際には、法定相続分を前提にした分け方になるのが一般的です。ただし、次に述べるとおり、被相続人の遺言書があれば、事情が変わってきます。

3 遺言書について

被相続人の遺言書(自筆証書、公正証書等によるものがあります)があれば、法定相続分等にかかわらず、被相続人の意思に従った遺産の承継が可能になります。例えば、妻に全部の遺産を相続させる旨の遺言書を作っておけば、妻だけが遺産を取得することができるのです。また、遺言書で遺言執行者を決めておけば、執行者が遺言書の内容を実現してくれますので、スムーズに手続を進行させられます。

ただし、注意していただきたいこととして、配偶者、子など一定の相続人には、遺留分という遺言によっても侵害できない権利があるという点です。例えば、配偶者や子は法定相続分の2分の1が遺留分ですが、兄弟姉妹には遺留分はありません。ですから、遺留分権利者がいる場合には、この人の遺留分を踏まえた遺言書を作成しておけば、紛争をかなり回避することができるのです。

先の例で、子がいる場合に、その遺留分相当の遺産を子に相続させた上で、それ以外の遺産を妻に相続させるなどの工夫も一つの案だと思います。

以上は、相続のごく一部です。専門的な事柄が多いので、弁護士に相談されることをお勧めいたします。


インターネットショッピングのトラブル
増えています! ご注意を

弁護士 平松真二郎

Q ネットオークションで腕時計を落札しました。「超美品です」とありましたが、実際に届いた腕時計はガラスやバンドに傷がありました。返品したいのですが、相手は「ノークレーム、ノーリターン」と表示していた」といって取り合ってくれません。

A 出品されている商品が中古品であるときは、新品とは異なり、常識的に考えられる範囲の傷はやむを得ないとしても、「ノークレーム、ノーリターン」と表示されていれば、どのような傷があっても甘受しなければならないとするのは不当です。

相談のケースでは、錯誤無効(民法95条)、詐欺取り消し(民法96条)、腕時計の瑕疵(かし)や出品者の説明義務違反を理由とする解除(民法570条、543条)を主張して、出品者への腕時計の返品と引き換えに支払った代金の返金を求めることになります。

なお、出品者が「業者」のときは、消費者契約法4条1項1号(不実の告知)や4条2項(不利益事実の不告知)を理由に契約の取り消しを求めることになります。

Q インターネットのショッピングサイトで、ネクタイを買いました。届いたネクタイはあまり気に入りません。返品できないでしょうか。

A ネット取引も通信販売です。返品が可能であるかは、特定商取引法に基づく表示の有無によります。

通信販売では、通販業者は、返品に関する表示をしなければなりません(特定商取引法11条)。返品可能であるかは表示されている条件に従って判断されます。

返品に関する表示がない場合、購入者が送料を負担すれば返品することができます(同法15条の2第2項)。

Q 外国の業者が開設しているショッピングサイトで、ワインを購入して、クレジットカードで代金を支払いましたが、いくら待っても商品が届きません。代金返却を求める裁判を日本で起こすことができますか。

A 契約に関しては契約当事者間での合意により、合意がなければ関係地の法律が適用されることになります(法適用通則法7条、8条)。ただし、自国の消費者保護に関する法律の適用を求める意思表示をすれば保護を受けられます(同法11条)。日本語サイト、業者とのやり取りが日本語のとき、取引通貨が日本円のときなどには、日本法が適用される可能性があります。日本法が適用される場合、日本で裁判をすることが可能です。

ただし、日本での裁判結果に外国の業者が従うかは別問題です。日本では「判決の効力は相互の裁判所で強制執行できる」という条約を締結している外国については、日本の裁判所の判決に基づく強制執行ができます。しかし、実際に海外で強制執行をするとなると書類を翻訳し、特殊な手続きで外国に送るなど、さまざまな費用がかかります。結局、少額の取り引きでは、裁判を通じた代金請求は割に合わないことになると思われます。

海外との取引のトラブルは解決が困難です。取り引きの際には充分な注意が必要です。