城北法律事務所 ニュース No.79(2019.1.1)


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憲法「改正」論議の正念場の年に

憲法「改正」論議の正念場の年に 〜「改憲阻止」で力を合わせて

弁護士 津田 二郎

1 この事務所ニュースでも第二次安倍政権発足以来、「憲法の危機」として何度も「憲法改正」問題について取り上げてきました。今回も取り上げます。

なぜか。安倍首相が本気で「憲法改正」を目指しているからです。そして憲法改正の発議は、国会の各議員の3分の2の多数で行わなければなりません(憲法96条1項)が、安倍政権与党が、引き続き今年7月に予定されている参議院選挙で、様々な経験を踏まえて成長してきた野党共闘に勝利し、引き続き参議院での3分の2を確保できるかどうかが不透明です。だから、参議院選挙の前に憲法改正の発議を行うのではないかとも考えられます。

2 しかしそうはいっても、2018年12月現在、憲法審査会には何の改正案も提案されていませんし、議論もされていません。これで本当に憲法「改正」できるの?とお考えの方もあろうかと思います。

これまでの安倍政権の下での政権運営を振り返ってみると、「やるにしてもやらないにしても『絶対』はない」と言わざるを得ません。思い出してください。秘密保護法、いわゆる安保法制の強行採決を。「丁寧に説明する」と述べた「モリカケ疑惑」の顛末を。過労死遺族が傍聴する中なされた「働き方改革」の強行採決を。

いったん「する」とギアを入れたら、国民に批判があっても、説明不足でも、データに誤りがあっても必ずやり遂げてきたのが安倍政権のやり方でした。そういうやり方に私たちの常識や一般論は通用しません。

3 ところで、私が、なぜ憲法「改正」といってわざわざ「改正」を「」でくくっているのか。それは、安倍首相が、自民党が考えている憲法「改正」は、現憲法を「正しく改める」といえるものではないからです。

自民党が出す「憲法改正草案」の特徴は、㈰ 日本国憲法を大日本帝国憲法に逆戻りさせる復古調の「改正」であること、㈪ 憲法を変えることなく実現可能な「政策レベル」の「改正」であることです。

例えば、日本国憲法では、人権が「天賦の権利」(人間が生まれながらに有する権利)であることを前提に、人権は人権相互の調整のためだけに制限ができると考えられています。自民党案は、そもそも「『天賦の権利』は過去の学説だ」などとして、公益や公共の秩序の範囲でしか行使できない(自民党案13条)とします。これは「法律の範囲内」でしか権利を認めなかった大日本帝国憲法に近づく考え方です。公益等による制約を認めないのは、「一個人の権利」と「公益」とを比較したら、「公益」の方が価値が高いと判断されやすいからです。これでは政権批判の言論も「公益」を害する言論とされてしまい取り締まりを受けることになりかねません。治安維持法はそのように運用された法律でした。

また自民党案は、自衛隊の明記、緊急事態条項、合区解消、教育の充実を中心に議論するようです。現在は自衛隊は憲法9条が歯止めとなって、大幅な軍備拡大が制約されています。しかし、自衛隊を明記することになれば、自衛隊は9条を後ろ盾に、大幅な軍備拡張ができることになります。9条はブレーキからアクセルに役割が変わります。 緊急事態条項は、大規模災害時に憲法の権利を停止し、選挙等も先送りにして首相に権限を集中することを内容とするものです。2018年は、立て続けに大きな災害が起こりました。6月の大阪府北部地震のとき、政府はコンビニの食料を運ぶ手助けをして、被災者に販売できる体制を調えました。7月の西日本豪雨では、気象庁が事前に極めて異例な会見を開き、災害への注意を喚起しましたが安倍首相は「赤坂自民亭」に参加し、対応は後手に回りました。9月の北海道胆振東部地震では、災害復興予算としてわずか5億円(道民一人当たり100円)を使用するとしました。災害救助・復興の妨げになったのは人権ではなく安倍首相、その人でした。

合区の問題は、公職選挙法の改正で手当てできます。

麻生財務大臣は、11月、選挙の応援で、国立大学卒の相手候補を「人の税金で大学に行った」などと批判したと報じられました。自民党のいう「教育の充実」の底の浅さが露呈した事件だと思います。

4 このように、安倍首相の憲法「改正」には、一つの道理もありません。野党が憲法論議を行なえば、安倍首相に「議論は尽くした」という口実を与え強行採決に道を拓きかねません。野党や私に求められるのは、安倍改憲の議論に乗らず憲法改正の発議の隙を与えないこと、そして、安倍政権の政権運営に対する批判を旺盛に行い、各種選挙で「安倍首相のもとではたたかえない」と政府与党に思い知らせる結果を出すことです。