城北法律事務所 ニュース No.79(2019.1.1)

特集 相続法改正

相続制度が大きく変わります

弁護士 小薗江 博之

相続法の分野については、昭和55年以来の大きな改正です。

高齢化が進み、相続開始時における配偶者の年齢も高齢化しているため、配偶者の居住の権利を保護するための制度が新設され、遺言の利用を促進して相続の争いを減らすための自筆証書遺言の方式が緩和されます。

最近最高裁判決で、従来遺産分割の対象でなかった預金を遺産分割の対象とすることになりましたが、これも明記されました。

配偶者の相続分を増加させる生前贈与制度、遺留分制度の考え方の見直しは、現行制度を大きく変えることになります。

相続人以外の者(長男の妻など)が無償で「療養看護その他の労務の提供」等をしたことによって「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」をした場合は、相続人に対し、寄与に応じた特別寄与料の支払を請求できることになりました。

この民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律は、2019年7月13日までに施行されますが、自筆証書遺言の方式緩和については、今年1月13日から施行され、配偶者の居住の権利については、2020年7月13日までに施行されることとされています。

城北法律事務所では、4月20日(土)に城北法律事務所にて相続無料相談会を開催いたしますので、この機会にお気軽に申し込みください。


残された配偶者の保護のための諸改正

弁護士 深山 麻美子

1 「配偶者居住権」が新設

新設された配偶者居住権には、次の2種類があります。

ひとつは短期の配偶者居住権です。これは、配偶者が相続時に無償で被相続人所有の建物に住んでいた場合、㈰遺産分割協議が成立するまで(但し、相続時から最低6か月は保障)、㈪建物が第三者に遺贈されたり、配偶者が相続放棄したときは、建物所有者が配偶者居住権の消滅を申し入れてから6か月の間、無償で居住できる権利です。

もうひとつは、ある程度長期間を予定する居住権です。同じく配偶者が相続時に被相続人所有の建物に住んでいる場合に、建物に関する権利を、「配偶者居住権」と、「(配偶者居住権の)負担付建物所有権」に分けます。共同相続人は遺産分割協議において、この配偶者居住権を選択することもできます。また、被相続人が遺言等で配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。例えば、相続財産が自宅3000万+預金2000万、相続人が妻と子の2人の場合、法定相続分は各2分の1なので、相続分どおり分ければ、妻が自宅を取得したときは、預金は相続できません。しかし、仮に負担付建物所有権が1500万の評価であれば、相続分どおりでも、妻は配偶者居住権で居住し続けながら、1000万の預金を相続できることになります。

2 持戻し免除の意思表示の推定規定が新設

前記の配偶者居住権の遺贈や、20年以上婚姻している夫婦間の居住用不動産の贈与について、残された配偶者保護のため、特別受益扱いにならないように、持戻し免除の意思表示の推定規定が新設されました。


遺産分割と遺言に関する見直し

弁護士 大八木 葉子

1 遺産分割に関する見直し

遺産分割に関しては、配偶者保護の方策の他、預貯金債権の仮払い制度、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲について改正されました。以下では、預貯金債権の仮払い制度について簡単に説明します。

相続人間で遺産分割協議がなかなかまとまらないことがありますが、改正前には、相続人は、遺産分割が終了するまでの間、単独で預貯金を払戻ができませんでした(平成28年の最高裁決定で相続された預貯金債権が遺産分割の対象財産に含まれることになりました)。

しかし、それでは、相続人が生活費や葬儀費用の支払や相続債務の弁済などする場合に困ってしまうことがあります。

そこで、改正法は、遺産に属する預貯金債権に関し、①家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和した他、②一定割合については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関窓口で支払を受けられるようにしました。

2 遺言制度に関する見直し

遺言制度に関しては、自筆証書遺言の方式緩和、遺言執行者権限の明確化等の改正がなされました。以下では、自筆証書遺言の方式緩和について簡単に説明します。

改正前の民法では、自筆証書遺言は、全文を自書する必要がありますが、改正法は、方式が満たされていないことで遺言者の最終意思が反映できないことを防止するため方式を緩和しました。

具体的には、パソコン等で作成した財産目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成できるようになります。もっとも、財産目録の各ページには署名押印する必要があります。なお、財産目録を使用した場合の変更手続きには注意が必要です。

3 自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言は、自宅で保管されることも多く、紛失してしまったり、相続人に捨てられてしまったり、改ざんされてしまうおそれがある等の問題があります。

そこで、このような問題によるトラブル発生を防止し、自筆証書遺言を利用しやすくするために、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が作られました。これは、民法ではなく、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」によるもので、施行期日は平成32(2020)年7月10日ということです。


遺留分も見直し

弁護士 湯山 花苗 

遺留分は、遺言などで特定の者だけに財産が渡った場合に、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に限って認められる最低限の財産の取り分です。相続法改正により、遺留分制度も見直されていますが、今回は、以下の2点についてご紹介します。

1 遺留分減殺請求の効力の見直し

現在は、遺留分減殺請求をすると、遺留分を侵害している贈与などはその侵害額の限度で効力を失い、贈与された財産そのものを返還するという現物返還が原則です。しかし、現物返還によって、遺留分権者と受遺者・受贈者の間で、財産の共有状態が生じてしまい、抜本的な解決とはならないことが、以前から問題点として指摘されていました。

そこで、改正法では、遺留分減殺請求をする権利を金銭債権化することにし、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いのみを請求できることとしました(遺留分侵害額請求)。

なお、受遺者・受贈者は、遺留分侵害額請求がされると直ちに多額の金銭を準備せざるを得なくなりますが、改正に伴って、侵害額の支払いを一定期間猶予してもらうよう裁判所に請求できるようになります。

2 遺留分の算定方法の見直し

現在は、遺留分の計算上、相続人に対する贈与のうち特別受益に当たるものは、原則としてそのすべての期間の贈与が遺留分算定の基礎となる財産の価格に算入されることになっています。つまり、何十年も前にした生前贈与も遺留分の算定の基礎に含まれることになり、受遺者は自らが関知し得ない大昔の相続人に対する贈与が原因となって減殺を受けることで、不測の損害が生じる恐れがあると指摘されてきました。

そこで、改正法では、相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものについては、相続開始前10年間に限定して算入することとしました。

言葉は聞いたことがあっても、完璧に理解するのは難しい遺留分制度。ぜひお気軽に、城北法律事務所までご相談ください。