城北法律事務所 ニュース No.58(2008.8.1)

目次

戦争をする国にしないために
「9条世界会議」を開催

「武力によらない平和」をテーマに
アジア・太平洋戦争後、もう2度と戦争をしてはならないと、世界に対する「不戦の誓い」として憲法9条は生まれました。そして60年以上にわたり、日本とアジアの人々の信頼関係の礎となってきました。

いま世界では、暴力と戦争の連鎖が進んでいます。イラク情勢は泥沼化し、中東の危機は続いています。アジアでは、朝鮮半島の核問題の解決が急がれています。「テロとの戦い」で、大国が軍事費を増やすなか、貧困は広がり、環境対策は遅れています。そんななか、世界で平和を求める人々は9条の考え方に注目し始めました。日本国内で「改憲論」が高まる今だからこそ、世界の人々とともに9条の意味を考えたいと思います。

武力によらない平和、それが「9条世界会議」のテーマです。イラク、中東、アフリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界5大陸から、紛争地での平和活動や、武器や軍隊をなくした経験を語り合います。(9条世界会議「呼びかけ」より)

5月4日全体会、5日分科会、最終日6日の総会では、3日間の集大成としての「戦争を廃絶するための9条世界宣言」が採択されました。


弁護士と市民が集う
第9コンサートin 幕張メッセ

弁護士 加藤 幸

「9条世界会議」の開会式イベントの一つとして,「市民と弁護士がつどう第9コンサートin幕張メッセ」と題し,弁護士と市民で構成された400人以上の合唱団とともにベートーベン交響曲第9番「歓喜の歌」を合唱しました。

これは,一昨年に開催した「市民と弁護士がつどう第9コンサート」を9条世界会議の舞台で再演しようと始まった取り組みです。

当初は「ゴールデンウィークの真っ只中に,そんなに人が集まるのだろうか?」と不安でしたが,日を追うごとに合唱団員の数は増え,ついには400人を突破しました。4月の最後の練習の時には会場が揺れるほどの歓喜の歌の合唱が響き渡りました。みなさんの第9を,平和を願う気持ちに圧倒され続けた4か月間でした。

そのパワーは本番も衰えず,内藤彰先生の指揮の下,東京ニューシティオーケストラの演奏に合わせ,7000人の聴衆を魅了する素晴らしい合唱となりました。合唱が終わった時には,観客と合唱団の憲法9条を守ろうという思いで会場全体が一体となったのを感じました。

これからも,「世界の平和を願い,第9を歌い続けていきたい。憲法9条を多くの方と協力して守っていきたい」そう強く思っています。


「恒久派兵法」の3つのウソ
「いつでもどこでも派兵法」が作られようとしている!

弁護士 大山勇一

福田首相は,自衛隊の「恒久派兵法」の検討を明言しました。恒久派兵法とは,個別の派兵法を国会でそのつど立法せずとも,内閣の決定だけで自衛隊を全世界へ送り込めるという法律です。自民党は石破防衛大臣の作成した「石破試案」(国際平和協力法案)をもとに恒久派兵法を具体化しようとしています。この石破試案の3つのウソについて見てみましょう。

【目的のウソ】
石破試案によると,自衛隊は「国際の平和及び安全を確保するため」に日本が必要と認めれば,国連決議などがなくても独自に海外派兵できるようになります。「平和及び安全を確保するため」っていうとなんか立派な目的のような気がします。しかし,現在行われているイラクへの自衛隊派兵だって「国際社会の平和及び安全の確保に資すること」を目的としていますが,実際にはアメリカの軍事的野心に従っているに過ぎません。

【活動のウソ】
これまでの海外での自衛隊の活動は「安全確保支援活動」などの「支援」でした。それが何と「安全確保活動」や「警備活動」そのものも可能になります。安全確保活動というとピンとこないかもしれませんが,アメリカ軍がアフガンやイラクで行っている掃討作戦も含まれます。自衛隊員が外国の民衆に直接銃口を向ける時代が迫っているのです。

【武器使用のウソ】
これまでの海外での自衛隊の武器使用は正当防衛などに限られていました。しかし,今回の試案では先制攻撃が可能となり,使用できるものも小型武器に限定されていません。

「いつでもどこでも派兵法」ができるということは,「武力は使わない」「戦争はもう二度としない」と定めた憲法9条の理念が根本から崩されるということです。国際平和を願うなら,非軍事的な貢献を進めるべきです。「いつでもどこでも派兵法なんていらない!」という声を大きく広げていきましょう。


イラク自衛隊派遣違憲判決
「傍論」として無視するのは「暴論」です

弁護士 田場暁生

4月、名古屋高等裁判所で、航空自衛隊がイラクで行っている多国籍軍武装兵士の空輸活動は憲法9条1項に違反するとの判決が下され、確定しました。イラクで起こっている現実を詳細に認定した上で、自衛隊の行動は他国による武力行使と一体化しているとした判決です。自衛隊派遣によって、私たちが人殺しに加担していることを判決は明確に憲法違反である、と断じたのです。

判決は、また、憲法9条に違反する国の戦争の遂行への加担・協力を強制されるような場合には、憲法で保障された平和的生存権に基づいて裁判所に対し差し止め請求や損害賠償請求等が認められる場合がある、と画期的な判断をしました。この判決は、今後「国民保護法」などによって、国民が戦争に協力させられそうになった場合、それを拒否し、司法的に争う拠り所になります。

この判決については、政府関係者を中心に「必要がないのに違憲判断をした『傍論』判決だから従う必要がない」等と言う人もいます。福田首相も「傍論。脇の論ね」と言っています。しかし、「傍論」かどうかの問題は、後の裁判所を拘束するかどうかの問題で、国会と内閣がどのような対応を取るべきかの問題とは異なる問題です。また、本件訴訟では原告らの損害賠償請求等自体は棄却されましたが、このような訴訟では、損害の有無があるかどうかを判断する論理的な前提として、自衛隊の行為が違法(違憲)かどうかを判断して、その後に損害があるかどうかを判断することになります。よって、憲法判断をするのはむしろ当然です。これまで、憲法判断をせずに、損害がないとだけ判断して原告の請求を棄却した判決が少なからず存在しますが、それらの判決は論理的には例外なのです。

そして、裁判所が違憲と判断したことについて、国会や内閣がその判断を尊重して、真摯に検討することが、三権分立の下、当然に求められます。今後具体的に国会や内閣がそのような対応をしない場合、そのときは私たち国民の出番でしょう。


市民メディアの学校が開講
映像メディアを使って声を届け、社会変革を

2008年6月、高田馬場に日本初の本格的市民メディアセンターが開設されました。その名も「MediR(メディアール)」。Rにはrights,report,reform といった意味が込められています。

イラク戦争に反対する市民運動、9条の会の活動などについて大手メディアは充分に報道しません。それならば市民が市民の手によって市民のための情報、特に映像メディアを流通させよう、そのための担い手を育てよう、というコンセプトでできたのがこのMediRです。MediRでは、映像メディア制作の技術やメディアリテラシーを習得するための連続講座を開設しています。また定期的に映画上映会や講演会などを企画し、映像撮影のための機材を貸し出しています。

MediRでは、理論と共に実践を重視しています。連続講座では、テレビや新聞、雑誌、アニメーションなど多様なメディアで社会の変革にコミットしている著名人をお呼びしてその経験に学び、市民のための社会を作り出すための討議を繰り広げています。誕生したばかりの市民メディアセンターMediRをご支援ください。詳しくは、以下のURLをご覧ください。
http://medir.jp
電話番号03-6382-9646


市民メディアNPJの紹介
(賛助会員も募集しています)

NPJ(News for the People in Japan)とは、20代30代を中心とする弁護士、ジャーナリスト、大学教員、学生、主婦などをメンバーとしたPeople’s Pressが運営する市民メディアで、当事務所でも、大山・田場・加藤が参加しています。

NPJでは「市民が社会を知るための情報発信」をコンセプトに、マスメディアでは知ることのできない情報も含めて、様々な社会問題についての情報提供をホームページ上で行なっておりますので、ぜひ一度「NPJ」で検索いただき、ご覧下さい。

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