城北法律事務所 ニュース No.66(2012.8.1)


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TPP参加で国が滅ぶ

弁護士 田場暁生

政府が参加を検討しているTPPってご存じですか? TPPとは、正式名称を環太平洋パートナーシップといい、工業製品、農産物など全ての商品の関税撤廃と、投資、金融、サービス、貿易、労働者の移動、知的所有権、公共事業の発注に関わる政府調達など広い分野について参加国間の規制を撤廃しようというものです。TPPについては、様々な議論がなされており、経済界中心に参加が声高に叫ばれています。TPPの問題点はいくつもありますが、国民主権という側面からTPPの問題を考えてみたいと思います。

日本がTPPに入った場合、関税の撤廃のみでなく、非関税障壁も撤廃しなくてはなりません。非関税障壁とは何でしょうか? 関税によって商品の値段は高くなりますので、商品を売りたい人にとって関税は障壁となります。外国に商品を売りたい企業などにとっては、関税以外で商品を売るために障害となるもの全てが非関税障壁となるのです。
たとえば、健康保険商品を日本で販売したいアメリカの保険会社があったとします。しかし、日本には国民皆保険制度があるので、これ以上健康保険なんて必要ありませんので、アメリカの「健康保険」なんて誰も買いません。これは、アメリカの保険会社にとっては商売の障害となります。ですので、TPPに参加すると、そのうちにアメリカの保険会社が、国民皆保険制度を廃止せよ、と言ってくる可能性がないともかぎりません。

その場合に、日本政府が国民皆保険制度を廃止しない、と主張した場合にどうなるでしょうか。アメリカの保険会社は、国際投資紛争解決裁判所に対して日本政府を訴えることができます。裁判所が判断するのは、自由貿易のルールに沿っているかどうかだけです。日本人のために有益な制度かどうかは関係ありません。日本政府が裁判で負けた場合、損害賠償を支払うか制度を変える必要があります。

TPP参加によって、安い海外の商品が入ってくることや(ただし、安全基準が緩い食品が入ってくる可能性大!)日本の輸出企業にプラスとなる可能性があること(ただし、日本が輸出で稼げる、自動車、家電製品などの耐久消費財の輸出額はGDP比1.652%しかありません(2009年度)。輸出業全体でもGDP比は11.5%のみ)などのメリットがあるかもしれません。

しかし、すでに述べたように、TPP参加によって、日本の国民などを守るために作られた制度や法律、規制などが、海外企業の利益にならないという理由だけで、NOを突きつけられかねない事態が生じるのです。

このような状態では、もはや国民主権は絵に描いた餅といえるのではないでしょうか。TPP参加は、多くの国民の利益にはならないばかりか、自分たちのことは自分たちで決めるというもっとも大事な原則がねじ曲げられるおそれが強いのです。

国を滅ぼすTPP参加反対の声を広げていきたいと思います。


議員減らしは政治家の身を切る改革?
比例定数削減論のまやかしを切る!

弁護士 小沢年樹

【マスコミが叫ぶ議員定数削減】
3年前の政権交代のとき、多くの国民はこれを歓迎しました。「コンクリートから人へ」「官僚主導から政治主導へ」のスローガンに期待し、事業仕分けの中継に拍手した方も多いでしょう。しかし、東日本大震災と福島原発事故への不充分な対応、安全対策見切り発車の原発再稼働、公約違反の消費増税10%値上げ…今では「裏切られた」と感じる人が大半ではないでしょうか。

こうした民心を背景にマスコミが政治批判するとき持ち出すのが「政治家は身を切る改革=議員定数削減を行え!」の「正論」です。でも、これは本当に「正論」なのでしょうか。

【比例定数削減のねらい】
民主党は衆議院議員定数を45削減する法案を国会に提出していますが、そのうち40議席は、現在180の比例区選出議員です。300議席ある小選挙区選出議員はわずか5議席しか減らしません。なぜでしょう。

それは、今回の定数削減の真の目的が、「政治家が身を切る改革」ではなく、「国民の多様な意見の切り捨て」、「大政党による強権政治」続行だからです。

もともと小選挙区制は、政権交代可能な2大政党制をつくるためと称して、第1党が4割の得票で7割の議席を独占するために導入されました。

しかし、これでは公明・共産・社民・みんななど、いわゆる中小政党はほとんど議席をもてず、国会論議も下火になって議会制民主主義は死んでしまいます。こうした批判をかわすため、得票率に応じた議席をもてる比例区が小選挙区にあわせて導入されたのです。

ですから、今回の比例区中心の議員定数削減は、小選挙区制の致命的欠陥をさらに拡大し、中小政党の意見を国会から締め出すことが大目的です。そうなれば、たとえば原発の危険性を強く訴え、再稼働にも反対している共産・社民等の支持者の声は国政に届かなくなってしまいます。それを喜ぶのが原発ムラの人々であることは明白です。

【民意を活かす抜本的改革を!】
民主党は、他の政党からこうした追及を受けたため、「連用制」という耳慣れない制度も法案に入れています。これは、比例区の議席配分を小政党に若干有利に修正するものですが、大部分の議席を占める小選挙区制の弊害はそのまま残り、民意を切り捨てる選挙制度の大枠は変わりません。

国民の意思を政治に活かす王道は、比例代表制を中心とした選挙制度改革を実現し、多様な民意を国会に反映することです。他方で、私自身はB型肝炎裁判の解決のために与野党の多くの議員と接触し、被害者の声を政治に反映させるために党派を超えて一人ひとりの議員が果たす役割は大きいと実感しました。

「政治家の身を切る改革」とは、国民と政治の大切なパイプ役である議員をむやみに減らすのではなく、国民の血税を自由に使わせる政党助成金を廃止して支持者に依拠した民主的政治スタイルを確立することです。