城北法律事務所 ニュース No.68(2013.8.1)


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福島原発訴訟
『生業を返せ、地域を返せ!』

弁護士 菊池 紘

3月11日、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」と訴える「福島原発訴訟」を福島地裁に提訴しました。被告の国と東電に、事故前の福島に戻すこと(原状回復)と、それまでの精神的苦痛の慰謝料の支払いを求めて。子供と家族の健康不安のため全国に散らばった人と、生活のため福島に残った人を合わせて、800名が原告になりました。第二次提訴ではさらに600名を超す人が原告に加わる予定です。

事故まで、国と電力会社は「日本ではチェルノブィリの原発事故のような事故は起こりえない」と安全神話をふりまき続けてきました。しかし福島原発事故により放出された多量の放射性物質は、15万人あまりの住民に避難生活を強いています。

裁判で被告の東電は、「最新の知見をふまえても、福島原発でこのような巨大地震及びこのような巨大津波が発生することは予見できなかった」として、責任を逃れようとしています。さらに国と東電は、裁判で事故の責任を認めないばかりか、逆に再稼働をはかり、原発の輸出を進めようとしています。

私は弁護団の共同代表のひとりとなり、この裁判の提訴に当たり、訴えました。「まず国と東電に責任を認めさせ、被害を救済させる。そのことがすべての原発ゼロにつながります。この一年、必ず毎週金曜日に官邸前と国会を包囲した行動の合言葉も『希望』でした。『子供を守れ、未来を守れ』と声を合わせ、国会正門前で、福島の皆さんに思いを馳せて、『ふるさと』をみんなで歌ってきているのです。『うさぎ追いしかの山。こぶな釣りしかの川』と。

この弁護団には若い弁護士が多く参加していますが、みなこの国の未来をこの裁判にかけているのです。そして子供たちの未来のため、この裁判にかならず勝利しよう」と。

各紙はいっせいに提訴を報道しました。なかで東京新聞は一面に提訴を伝え、その「筆洗」欄は「福島地裁に出された訴状にこうある。『ひとりで生きてきたものは一人としていない。その結びつきの場が、美しい福島であった。』『原告らが求めるものは、第一に、もとの美しい福島、ふるさとを返せ、という住民の叫びそのもの』・・・・・」と伝えました。そして「国と東電は、かけがえのないものを奪われた人びとの訴えに、どう答えるのか」と結んでいます。


許されないヘイトスピーチ

弁護士 田村優介

2013年2月以降、多数回にわたって、在日特権を許さない市民の会(在特会)やその他団体によって、新大久保周辺地域において集団行進が行われ、「殺せ殺せ朝鮮人」、「韓国=敵、よって殺せ」、「朝鮮燃やせ、我々はソウルの街を火の海にするぞ」などのシュプレヒコールやプラカードが出され、また、沿道の歩行者や店舗の店員に「韓国人は出て行け」などの罵声が浴びせられ、多くの市民が強い恐怖を感じ、店舗の営業が妨害される状況が発生しています。

これらの行為によって周辺の在日外国人の方の多くが、現に差し迫った生命身体の危険を感じ、恐怖を抱いたことは間違いありません。

ヨーロッパのドイツ、フランスなどにおいては、外国人排撃運動に対し社会のしかるべき対応が行われなかったことから外国人の生命が奪われ、また放火など重大な犯罪に発展したこともあり、このようなことは到底見過ごすことができません。

確かに、表現の自由との関係で、公権力に安易に表現行為の規制を求めることには慎重でなければなりません。言論には言論で対抗することが原則であり、その意味でも、このような行為は許されないのだ、ということを市民のなかでしっかりと議論し、対抗言論をしっかりと醸成していく必要があるのはいうまでもありません。

しかしながら、在特会が発している上記のような言葉、行為はもはや表現の自由の範囲を逸脱した憎悪に基づく攻撃であり、まったく許されないものです。これについては、言論による対抗という解決を待つだけでなく、弁護士としてできる措置をできる限り行っていく必要があります。

現在、弁護士有志は、在特会の行為に対し、弁護士会への人権救済の申し立て、警視庁への申し入れ、また参加者による傷害・暴行行為の告訴など、さまざまな手段を用いて対抗しています。

また、週末などに行われる集団行進の現場に弁護士が赴き、有志によって行われているカウンター行動の見守りなども行っています。

市民の方のカウンター行動などにより、最近は在特会の動きも過激さを表面上抑えるよう変わってきている様子もあります。これは行動のひとつの成果といえると思います。

また、在特会のような他者へのバッシングが活性化するのは、現在の日本において生活基盤などが不安定となり、何か特権をもって安定した暮らしをしている存在を想像して、いわゆる「仮想敵」にしてしまうという状況もあると考えられ、このような状況の根本的な改善も当然のことながら求められます。

今後もこの問題を注視し、弁護士と市民が協同して、このような動きを許さないことが求められます。


生活保護法改悪案廃案‼
生保発足後最大の切り下げに

弁護士 田見高秀

6月26日、通常国会の閉会とともに、政府提出の生活保護法改悪案は廃案となりました。廃案の要因として、地道に粘り強く繰り広げられた反対運動の影響を指摘する報道もありますが、同時に、7月21日投票の参院選の結果しだいでは、国会に再提出される可能性も指摘されています(ダイヤモンド・オンライン7月12日付記事「生活保護のリアル」)。

日弁連ー廃案求める緊急声明  
日本弁護士連合会は、生活保護法改悪案が閣議決定された5月17日、生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急会長声明を出しました。声明は、①生活保護を申請するとき厚生労働省が定める書類を添付することを申請の要件とする規定を設けるとしているが、書類不備を理由に窓口で申請を受理せず申請者を追い返す、いわゆる水際作戦を追認し合法化する、また、②社会福祉事務所が保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、(申請者の)扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けているが、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくありません。改悪案は一層の萎縮的効果を及ぼすもので容認できない、として改悪案に反対を表明しました。

今回廃案となった生活保護法改悪案は、生活に困窮した国民が、生活保護の申請に窓口に来ても、担当者に「書類が揃わないと申請を受理できない」「親や兄弟に面倒を見てもらいなさい」と言わせて申請受理せず追い返すことを合法化しようとするものでした。

声明は締めくくっています。(この改悪案が通れば)「客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらず、これを利用することのできない要保護者が続出し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。これは我が国における生存権保障(憲法25条)を空文化させるものであって到底容認できない。よって改正案の廃案を強く求める。」

生活保護額の大減額―8月から  
政府は、平成25年度予算で生保発足後最大の生活保護基準の切り下げを行っています。保護費のうち生活費にあたる「生活扶助費」が平成25年度から27年度まで3年かけて最大10%減額されます。

今年8月から第一段階の減額が開始されます。全国生活と健康を守る会連合会(全生連)は、「生活保護の引き下げに異議あり」「泣き寝入りはしません」と生活保護減額に対する不服申立(審査請求)の取り組みを開始しています。憲法25条を前面にした熱い夏、熱い秋になりそうな予感です。