城北法律事務所 ニュース No.80(2019.8.1)


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法改正 「働き方改革」

弁護士 種田 和敏

「働き方改革」一括法の成立

安倍政権は、2018年6月、「働き方改革」一括法案の採決を強行し、成立させました。今回は、この「働き方改革」に関する法律について、問題点を中心に、一部を紹介することにします。

高度プロフェッショナル制度について

まず、高度な専門知識を有し一定水準以上の年収を得る労働者について、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外する仕組み(「高度プロフェッショナル制度」)が導入されました。この制度は、2015年から法案提出されていますが、反対が多く、長らく成立に至らず、一度は廃案になったものですが、「働き方改革」一括法の一部に組み入れられ、成立するに至りました。

制度の内容としては、金融商品の開発業務など、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務に従事する、年収1075万円以上の労働者について、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しなくてもよいというものです。つまり、1日に何時間、働かせてもいいし、残業代を払わなくてもいいという制度です。

労働基準法に定められた労働時間などの規定は、国が規制しなければ、労働者は酷使され、人間らしい生活が営めなかった過去を教訓に、憲法第27条第2項が定める、私たちの大切な権利です。その大切な権利に例外をつくることは、そもそも憲法違反ですし、労働者の権利実現の観点からは、マイナスでしかありません。「私は、そんなに年収が高くないから大丈夫。」とか、「それだけ給料をもらっているのだから、仕方ない。」と言う人は、慎重であるべきです。たとえば、派遣法は、制定当時、13業務に限定されていましたが、現在では、原則、自由化され、建設、港湾運送、警備、医療以外の分野で派遣が認められています。このように、一度、「風穴」が開くと、対象範囲は拡大される危険性があります。特に、国会審議で、高度プロフェッショナル制度が、経団連などの財界からの要求であることを安倍首相も認めているとおり、会社にとって、労働者をコキ使うための手段となることが大いに懸念されます。

電通での過労自死事件をはじめ、過労死がなくなりません。それにもかかわらず、残業代ゼロでの超長時間労働を可能にし、過労死を激増させる、この法「改正」について、私たちは、一刻も早く、廃止すべきだと考えます。

残業時間の上限規制について

今回の「改正」で、残業時間に上限が法定されました。残業代の上限が決まったということは、労働者にとって、歓迎すべきことのようにも思えます。

しかし、時間外労働と休日労働をあわせて、「単月で100時間未満」、「2~6か月で、1か月当たり平均80時間」、「12か月連続80時間・1年960時間」を容認するものとなっています。これは、厚生労働省の過労死認定基準が定める「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間に1か月当たりおおむね80時間」との過労死ラインの残業を認めることにほかなりません。つまり、残業時間の上限規制が設定されたものの、その上限が過労死基準さえオーバーするような「ざる」な規制なので、むしろ長時間労働を助長する危険性さえあるものだということです。

実際、この「改正」の前後で、年間の時間外労働の上限を引き上げた企業もあります。私たちは、高度プロフェッショナル制度と同様、長時間労働を正当化し、過労死を助長する、この法「改正」について、速やかに廃止をすべきだと考えます。

人間らしく働くルールの確立を!!

以上のとおり、「働き方改革」一括法は、その一部だけを見ても、残業代ゼロと過労死を促進し、労働者の権利を後退させるものです。今、求められていることは、「高度プロフェッショナル制度の即時廃止」、「時間外労働と休日労働をあわせた残業の罰則付きの上限規制を1週間15時間、1か月45時間、1年間360時間等とすること」、「始業後24時間を経過するまでに11時間以上の連続した休息時間を付与する勤務間インターバル制度の創設」など、人間らしく働くルールを確立することです。

人間らしく働くルールの確立のためには、労働者が自らの権利擁護のために積極的に行動することが必要だと思います。