城北法律事務所 ニュースNo.88 2023夏号(2023.8.1)


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入管法改正問題

ウィシュマさん事件を教訓に正しい入管法改正を
~外国人排除ではなく待遇改善を~

弁護士 田場 暁生

先の国会で入管法が改正されました。難民認定の申請の回数を事実上制限するなど人権を制約し、管理や監視強化で「外国人排除」を強める内容です。2021年3月、名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが入管の不適切な対応や医療体制の不備により死亡しました。

これ以外にも入管施設で多くの命が失われています。このような事態を防止するための入管法の改正は必要ですが、それは人権尊重、適切な難民保護といった視点からなされるべきです。

たとえば、入管収容制度自体の問題点として、現在のように収容の是非を収容する入管の裁量にゆだねるのではなく第三者的立場である司法の判断にゆだねることや収容期間を短縮するとともに収容期間の上限を法律で設けることなどが必要です。また、収容を回避すべき対象者について就労が認められない場合は、社会で生活が可能となる衣食住の条件を整備することによって収容を解く制度の導入も必要です。

他方、収容者に対する処遇の問題についても、拷問、残虐、非人道的、品位を傷つける扱いにならないような禁止規定などを設け、また、医療部門が独立性をもつようにするとともに、医療を含む処遇に関する不服申立制度の整備や独立した審査機関の設置なども必要です。

国籍や在留資格に関係なく、すべての人の基本的人権が平等に尊重される社会を実現すべく、努力していきたいと思います。

~入管法改正~
強制送還ありきではなく、国際的なスタンダードへ

弁護士 結城 祐

政府は、2005年の法改正により難民申請中は強制送還されないとしていましたが、執筆段階(2023年6月4日)で、衆議院で可決された入管法改正案は、3回目以上の難民申請者については原則的に送還停止効を解除して送還を可能とし、送還を拒否する者に対する退去命令制度(強制送還を妨害した場合の懲役1年以下の罰則を含む。)を新設すること等を内容とするものです。

日本の難民審査は非常に厳格であり、2021年の難民認定率でいえば、日本は僅か0.7%(74人)であり、6割を超えるイギリスやカナダはもちろん、アメリカの32.2%やドイツの25.9%を大きく下回る結果となっています。このように難民認定率が極めて低いだけに、難民申請が3回以上という理由だけで送還停止効を解除してしまうことは、真に保護を必要としている方を見落とすおそれがあるだけではなく、日本が迫害を容認しているようなものであり、人道上も許されません。まずは難民認定率を国際的なスタンダードに近づけることが優先されるべきです。

また、難民審査は出入国在留管理局内で処理されますが、不認定の場合に詳細な理由はなく、その基準が不透明であることも問題です。さらに、私自身も多数の難民認定申請や難民不認定に対する異議申立て(審査請求)に関与しておりますが、審査請求の口頭審理手続において、参与員が難民不認定とすることに慣れ切ったような態度であり、手続の公正さが担保されていないように感じました。強制送還ありきではなく、第三者によるチェック体制の整備や難民保護のために出入国在留管理局から独立した機関の設置が不可欠です。