城北法律事務所 ニュースNo.88 2023夏号(2023.8.1)


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<法律相談>
〈交通事故の法律相談 連載企画 第1回〉交通事故発生!
─事故後の対応や治療代は?─

弁護士 木下 浩一

1 はじめに

交通事故に遭うと誰しもパニックに陥ってしまうものです。いざというときに備え、交通事故にあったら最低限何をしたらいいか確認し、あわせて当面の治療費の取り扱いがどうなるのかについて簡単にご説明します。

2 緊急措置義務

緊急措置義務とは、交通事故の当事者等が直ちに取らなければならない措置です。①運転停止義務、②負傷者の救護措置義務、③道路における危険防止措置義務の3つが定められています。特に問題となりやすいのは、②の救護義務違反であり、いわゆる「ひき逃げ」として、重い刑事罰が課される可能性があります。実際に事故を起こしてしまった場合、パニック状態にあり、逃げるという客観的に見れば極めて不合理な行動を選択してしまいがちというのは、心理学的観点からも説明がされているところです。また、人身事故のケースで、人にぶつかったとは思わなかったので立ち去ったという言い分が散見されますが、容易に認められる主張ではありません。何かにぶつかったと思ったら直ちに停止して状況を確認することを平時から心がけておきましょう。

3 警察・保険会社への連絡

次に必ず警察を呼びましょう。加害者の場合、被害者が「怪我が無いので呼ばなくていい」などと言っても、報告義務を怠ると刑事罰が課されることがあります。
その後、法的な義務ではありませんが、加害者自身で加入している任意保険会社にも連絡を入れておきましょう。

4 治療費の支払い

交通事故の被害者となった場合、治療費がどうなるのか気になるところです。加害者が任意保険に加入していれば、治療費は相手方保険会社から病院に直接支払われることが多いです。

ただし、被害者が一旦治療費を立て替え、あとから加害者側に請求するケースもあります。その場合は、負担を軽減すべく健康保険を使う選択肢もあります。ご自身の加入する健康保険組合等に「第三者行為による傷病届」を提出すれば、交通事故の怪我の治療でも健康保険を利用できます。後日の請求に備えて領収書などを必ず保管しておきましょう。なお、仕事中や通勤途中で交通事故に遭遇した場合は労災保険を利用することが可能となり、健康保険を使えません。使ってしまった場合には切り替え等の手続が必要です。

立て替えた治療費は、基本的に示談・和解により回収できます。示談・和解前に治療費を回収するには、①加害者側の自賠責保険に「被害者請求」をする、②加害者側の自賠責保険の「仮渡金制度」を利用する、③被害者側で「人身傷害保険」に入っていればこれを利用するといった方法が考えられます。このうち②「仮渡金制度」とは、被害者が、喫緊に必要とする当座の出費に対して速やかに保険金を支払う制度で、傷害の場合は程度に応じて5万円、20万円、40万円といった一定の金額を受け取ることができます。

なお、上記については、加害者が自賠責保険や任意保険に加入していることを前提としていますが、加害車両が無保険車であったり加害者不明のままのひき逃げ事故の場合には、政府保証事業等の利用も検討することになります。

5 最後に

上記については多くの例外もあります。紙面には限りがあるため大枠の説明にとどまります(証拠の収集・保全という点にも触れたかったところです)。交通事故に遭遇したら、とにかく緊急措置や警察への報告をすませ、その後の対応については、保険会社や弁護士へご相談ください。

[予告]

〈第2回〉けがの治療中 ―まだ痛いのに保険会社にもう治ったから治療代を支払わないと言われている―(次号)
〈第3回〉症状固定後 ―医師にこれ以上治療しても治らないと言われた― 後遺障害等(次々号)