城北法律事務所 ニュースNo.88 2023夏号(2023.8.1)

<法改正>自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務化されました
~道路交通法改正~

弁護士 片木 翔一郎

最近、街中で自転車に乗っている警察官がヘルメットをつけるようになったのに気づきましたか。自転車に乗車する際には、これまでも13歳未満の子どものヘルメット着用の努力義務がありましたが、道路交通法の改正によって2023年4月1日から、自転車に乗車する全ての人に自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務とされました。

「努力義務」というのは、「ヘルメットをつけていないことで直ちになんらかの違反になるわけではないですが、つけるように努力しましょう」ということです。では、ヘルメットをつけてもつけなくても法律的に全く変わらないのでしょうか。例えば、交通事故の際の過失割合の認定などに影響しないのでしょうか。

これについては、ヘルメット着用が「努力」義務である以上、原則的には影響がないということになります。もっとも、法改正がなされたばかりですので、この点について明確に判断された事例などはまだありません。したがって、いかなる事故の態様によっても全く影響がないとは言い切れず、具体的にはケースバイケースとなるでしょう。また、今後自転車でのヘルメット着用が一般に定着すれば、ヘルメット着用の有無がより重視されるようになってくる可能性もあります。

ともあれ、けががないことが一番なので、自転車乗車時にはできるかぎりヘルメットをつけて自分の身を守るようにしましょう。

住所、氏名等の秘匿決定制度
~民事訴訟法が改正され、匿名で訴え提起等ができる制度ができました~

弁護士 大八木 葉子

2023年2月20日、住所、氏名等の秘匿制度を定める改正民事訴訟法が施行されました。
それまでは、訴状に原告の住所、氏名の記載が要求されており、相手方当事者に訴訟記録の閲覧制限を認める規定がありませんでした。そのために、例えば、性犯罪の被害者が加害者に氏名等を知られることをおそれ、損害賠償請求を躊躇するなどと言われてきました。

今回の改正では、住所や氏名等について、これらが相手方当事者に知られることによって申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合、秘匿決定の申立てを行い、裁判所が秘匿決定できる制度が創設されました。

秘匿決定されますと、代替事項(例えば、「代替住所A」「代替氏名A」)を記載すれば真の住所又は氏名の記載は不要となりますし、申立てをした方以外は申立てに際して提出した秘匿事項届出書の閲覧等が制限されます(秘匿決定の判断が出るまでの間も秘匿事項届出書の閲覧等は制限されます)。また、「代替氏名A」などの代替事項ではなく住所や氏名等が記載された書面や、例えば、受診した近隣の医療機関名など住所等を推知する事項についても、その記載部分につき閲覧等の制限申立て・決定が可能となります。代替事項が記載された判決に基づく強制執行も可能となりました。

家事事件についても、住所、氏名に関する秘匿制度が導入されました。

このように、今回の改正により、これまで躊躇されていた方も匿名や住所を明かさずに訴えの提起ができるようになり、泣き寝入りしないで済むことが多くなると思います。