城北法律事務所 ニュース No.82(2020.8.1) 創立55周年記念号


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〈新型コロナ関連〉法律相談 Q&A

弁護士 結城 祐

「解雇、内定取消し」

執筆時点ではコロナの感染拡大による社会的な影響が大きなものになっています。解雇や内定取消しについて一般論とコロナの感染拡大による特殊性を踏まえたQ&Aを作成いたしました。お一人で悩まずに、是非ご相談ください。

無期雇用者に対する解雇

Q1

経営状態の著しい悪化を理由とする解雇は有効でしょうか。

A1

1 使用者は労働者を自由に解雇することはできず、客観的合理的な理由を欠き、社会的相当性が認められなければ、無効です(労働契約法16条)。そして、裁判所は容易には解雇を有効と認めません。

特に、新型コロナを原因とする場合も含め、会社の経営状態に影響が出たことを理由に解雇する場合、労働者に帰責性がなく、「整理解雇」として通常の解雇よりもさらに厳格に判断されます。

2 整理解雇は以下の4つの要件で判断されることになります。

ⅰ 人員整理を行う必要性
ⅱ できる限り解雇を回避するための措置が尽くされているか
ⅲ 解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であるか
ⅳ 事前に使用者が解雇対象者へ説明や協議が尽くされていること

具体的には、ⅰについては、会社の預貯金や借入金の状況等から経営状態の悪化が必要です。

ⅱについては、整理解雇前に、残業の削減、新規採用の回避、希望退職者の募集、役員報酬の削減等の手段をとって、解雇を回避する真摯な努力が講じられたかが検討されます。新型コロナとの関係では、上記のほか、損失補填の努力(雇用調整助成金等の利用・検討の有無)がポイントになるといえます。

ⅲについては、勤務成績、勤続年数や労働者の生活上の打撃等が挙げられます。他方、違法な差別に当たるような基準や、使用者の恣意的な選定を許すような抽象的で客観性を欠く基準(例えば「協調性」といった曖昧なもの)は認められません。

ⅳについて、裁判例には、労働組合と協議しその合意を得ていたが、対象労働者から意見を聴くなどの手続を経なかったため、解雇手続は十分な相当性を備えていないとしたものがあります。

有期雇用者に対する雇止め

Q2

有期労働契約を締結しておりますが、経営状態の著しい悪化を理由に、契約期間満了時に、次の契約の更新を拒絶して雇用を打ち切ることは有効でしょうか。

A2

1 契約期間満了時に、次の契約の更新を拒絶して雇用を打ち切ることを雇止めといいますが、①有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できると認められる場合、または②労働者において有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由があると認められる場合には、期間満了のみを理由に雇止めができるわけではなく、解雇と同様に厳格に雇止めの有効性が判断されることになります(労働契約法19条)。

2 上記①②に該当するかについては、更新回数、契約の通算期間や使用者の言動等、様々な事情を基に総合的に判断されます。5年を超えて労働契約を反復更新している場合には、無期転換ルールにより雇止めを回避できる可能性があります。 いずれの場合にも専門的な判断が必要となりますので、弁護士にご相談ください。

有期雇用者に対する期間途中の解雇

Q3

有期労働契約を締結しておりますが、経営状態の著しい悪化を理由に、契約期間の途中に、契約を打ち切ることは有効でしょうか。

A3

有期労働契約であっても、その契約期間の途中で契約を打ち切るのは、解雇になります。そして、契約期間の途中で契約を打ち切ることになるので、「やむを得ない事情」が必要とされており(労働契約法17条)、無期労働契約の解雇と比較しても、より厳格に有効性が判断されます。コロナを原因とする場合も含めて、経営状態の悪化を理由に契約期間途中の解雇は認められないと考えます。

内定取消し

Q4

経営状態の著しい悪化を理由とする採用内定の取消しは有効でしょうか。

A4

採用内定の段階に至れば、始期付き解約権留保付きの労働契約が成立していますので、使用者が自由に内定を取り消せるわけではありません。内定取消しは、通常の解雇同様、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められなければ無効です(労働契約法16条)。特に、新型コロナを原因とする経営状態の著しい悪化を理由に内定取消しをする場合、労働者に帰責性はありませんので、「整理解雇」と同様の要件によって、その有効性が厳格に判断されます。
なお、新型コロナ感染拡大に関連して、政府が主要経済団体に対し、新卒の採用内定者について、特段の配慮(採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じること、対象者からの補償等の要求には誠意を持って対応すること等)を要請していることからすれば、使用者が軽々に内定取消しすることは想定されていないものと考えるべきです。