城北法律事務所 ニュース No.83(2021.1.1)


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改憲特集 座談会
安倍退陣によって、憲法改悪の危険は過ぎ去ったのか?

小薗江博之 弁護士
深山麻美子 弁護士
田村 優介 弁護士

1 安倍退陣と改憲路線を継承する菅政権


深山 2020年8月、安倍前首相が体調を理由に突然退陣し、9月16日、菅義偉内閣が発足しました。憲法「改正」を悲願としていた安倍前首相の退陣により、憲法改悪は遠のいた、との雰囲気を感じるのですが。

小薗江 そういう雰囲気はあるのですが、菅首相は、安倍政権の方針を引き継ぐと明言しているし、安倍政権が敷いた布陣をそのまま残しています。自民党改憲推進本部のメンバーは、まず衛藤征士郎・元衆院副議長を本部長に起用。そして、前本部長だった細田博之・元幹事長は衆院憲法審査会長に就く。党役員では、改憲に熱心な下村博文政調会長と佐藤勉総務会長が既に就任している状況ですね。

田村 これまでの改憲推進派そのままですね。

小薗江 安倍前首相が掲げた改憲路線をこれまでどおり推進するために、菅首相が敷いた布陣といえます。

深山 「安倍9条改憲」をむしろ加速しようという企てそのものですね。

田村 菅首相は、自民党新総裁就任時の記者会見で憲法「改正」について質問された際、「自民党は憲法改正を是として立党された政党。(憲法施行から)70年以上たち、現実とそぐわないことがたくさんある。まず審査会を動かしていくことが大事だ。そこで議論をして、国民の雰囲気を高めていく。私自身、総裁として、自民党が4項目を決定した、憲法改正に挑戦をしていきたい。」と答えています。

深山 菅首相は、一見、憲法について目立った発言をしていないようにも思っていましたが、総裁就任の時から党是の実現を「私自身」が挑戦すると明言しているんですね。

田村 忘れてならないのは、改憲を目指した安倍内閣で提出された国民投票法改正案が、継続審議を繰り返していることです。安倍前首相は、退任後の11月13日に行われたインタビューで、憲法改正に関し「今国会で国民投票法改正案を成立させるべきだ。本気でやるべきだ」と述べ、今国会で採決すべきだとの考えを示しています。

小薗江 コロナ禍の中で、国民の世論も、憲法「改正」を急ぐべきだという意見は少ない。今のところ菅政権は、コロナ対策が重要だ、というポーズをとっていますが、国民投票法に対する姿勢をみても、その後の課題として憲法「改正」が念頭にあることは明らかです。

深山 話が少しずれますが、辺野古基地建設の強引なやり方なども、菅内閣の姿勢とリンクしているように感じてしまいます。菅首相の姿勢は、決まったことは問題意識を持たずどんどんやっていく、というものに思えます。自民党の党是が憲法「改正」である以上、タスクとして粛々と進めるのではないでしょうか。これって、自分の情熱で「改正」を目指すよりも、むしろ怖いことかもしれません。

2 日本学術会議任命拒否問題

深山 菅内閣が発足してすぐに、日本学術会議の大問題が明らかになりました。

田村 私が現在事務局長を努めている青年法律家協会(青法協)でも、日本学術会議任命拒否問題についてはただちに抗議声明を出しています。この問題は、任命拒否そのものもさることながら、その後の菅首相らの説明があまりにもおかしいと思います。

小薗江 内閣総理大臣が任命するという規定にも関わらず、実際には官房副長官が決めた、と明かしたりしていますね。

田村 当初は、「総合的・俯瞰的に(自分が)判断した」と説明しましたが、内容があまりに空虚で、追及を受けると今度は人選の「多様性」を持ち出し、これも客観的事実と矛盾することが指摘され、「官房長官が決めた、自分はリストを見ていない」、と言い、見ていないとすれば内閣総理大臣が任命すると定める日本学術会議法に抵触すると批判されると、「『詳しくは』見ていない、ということ」、と修正するなど、二転三転どころではない体たらくです。

深山 安倍内閣時代の官房長官の時とやっていることは同じ。「その指摘は当たらない」と述べるだけで、何ら具体的な説明はせず、議論をさせない。

田村 学問の自由(憲法23条)に対する侵害だ、との批判についても全く合理的な回答はしていないです。

深山 任命を拒否された教授のみならず、その教え子までネットで叩かれるといった被害も出ているようです。学生は就職への影響も気になるだろうし、任命拒否をされた教授や学生を萎縮させる効果は凄まじい。

小薗江 「このような学者・研究は、学問の自由の対象ではありません」と言っているようなものですからね。

深山 政府を批判したらまずいな、という雰囲気が醸成されている。国民が先回りして様々な面で萎縮し、口を閉ざしてしまう、民主主義の崩壊につながると大変心配です。

3 検察庁法改正について

田村 黒川東京高検検事長の定年延長と、これに引き続く検察庁法改正の問題も、菅首相が官房長官の時代からずっと批判され続けています。
小薗江 この問題も、自己の思惑(桜を見る会・森友加計の刑事問題化を阻止したい)のため、法解釈をむりやりに捻じ曲げたことは今回の任命拒否問題とまったく同じです。黒川検事長の際は、安倍前首相が、自らに近い黒川氏を検事長に据え置いて検事総長に任命するため、これまでの政府見解と矛盾する法解釈を強行しようとしました。この問題はネットなどを通じた国民の批判が盛り上がり、安倍内閣の思惑を止めたことは特筆すべきできごとだったと思います。

深山 「李下に冠を正さず」。政権にある者こそ、自分への利益誘導だと批判を受けるような法解釈や法律制定は厳に慎むべきで、これを強行すれば、権力の濫用と言われても仕方ありません。検察庁法の改正が国民の批判をあびたのも、もっともだと思います。

4 敵基地攻撃能力論

田村 また、2020年6月には、安倍前首相は、同月決定した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画の停止を踏まえて安全保障戦略を練り直す方針を表明し、ミサイル攻撃に対する対抗措置としてその発射前に相手基地を攻撃する、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有についても検討対象とする考えを示しています。これを受けて自民党の「ミサイル防衛検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)は、2020年8月、「国民を守るための抑止力向上に関する提言」として、敵基地攻撃能力という文言こそ盛り込まなかったものの、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を求め、実質的には敵基地攻撃能力の保有を安倍前首相に求めました。

深山 この問題は、そもそもはどこから出てきたのですか。

小薗江 トランプ大統領から、兵器を大量に購入するよう求められたことが背景にあると思います。この外圧から、以前から議論のあった敵基地攻撃能力保有の問題が再度議論されています。

田村 政府はこれまで、「専守防衛」論にのっとり、「敵基地攻撃能力の保有は憲法の趣旨に反する」としており、安倍前首相も、2015年の安保法制の議論の際は、「敵基地攻撃能力は保有しない」、と明言していました。

小薗江 安保法制が大問題になった当時の「集団的自衛権」の話ともつながり、そして、当時安保法制に反対した学者が、今回任命拒否された、ということでつながってきます。

5 どうしたら憲法改悪の動きを止められるか

小薗江 これまでの世論調査では、「(安倍内閣の下での)憲法改正」には反対が多かったが、一般論として憲法「改正」についてどう思うかを問うと、時代に合わせて改正すべきだという意見(中には集団的自衛権等制約を明記すべきという意見も相当ありますが)が多くなっています。ここからすると、安倍内閣退陣は必ずしも良い材料ではない、と見ることもできます。

深山 安倍内閣が退陣したからといって全く気を抜くわけにはいかない、ということですね。

田村 安倍政権に憲法改正の発議をさせずに退陣に至らせたことついて、市民の世論の力、運動の力は一定程度あったと思います。青法協や「明日の自由を守る若手弁護士の会」でも、SNSや動画、オンライン会議などを活用した若い人たちなどへのアピール方法を試行錯誤し、一定の成果は出してきたと思います。
だからといって気を抜かず、今後も運動を強めていきたいと思っています。

深山 菅首相は若い人に人気があるようですが、その理由はなんなのでしょうか。

田村 「パンケーキ好き」のエピソードを大量に流すなど、マスコミ、広告代理店を利用した戦略の影響も強いと思う。マスコミとの会食などでの懐柔、広告代理店への利益供与としか思えない極端な高額発注などがあからさまに行われています。

小薗江 まだ現政権の直接・具体的な問題としては学術会議任命問題くらいしか出ていませんが、引き続き厳しく注視をしていく必要があります。今はコロナの問題が一番重要です。国民の生活・健康・生命と、国民の経済の双方をしっかりと守る政権が望まれます。

<法律相談>離婚後の生活費が不安・養育費を支払ってほしい

弁護士 大山 勇一

子どものいる夫婦が離婚をする場合、どちらの親がその子どもを引き取るのか(親権・監護)ということと共に、子どもが社会的に自立できる年齢までに必要な費用(養育費)の負担についても問題になります。

離婚が成立するまでの間は、「婚姻費用の分担」といって、収入の多寡によって多いほうから少ないほうに一定額の生活費の請求が認められる場合がありますので、別居する場合には、まず弁護士に相談すべきです。

そして離婚に際しては、養育費について、あらかじめ合意内容を夫婦間で取り決めておくのが望ましいのですが、母子家庭において養育費の取り決めをしているのは43%にとどまります(2016年厚労省)。子どもの健全な成長のために、ぜひ話し合っておきましょう。

話し合っても合意が成立しない場合には、家庭裁判所での調停手続きを利用することができます。調停でも合意が成立しない場合には裁判所が審判を行います。養育費の目安として、裁判所が公表している「算定表」があり、2019年12月に改訂されました。全体としてこれまでよりも養育費の額が1、2万円上がっています。いったん合意をしたけれども、双方の経済的な事情の変化や子どもの成長などにより増額(あるいは減額)を求めたいというときも、交渉で決着がつかなければ調停や審判を利用することができます。

相手方が財産隠しをしていると、適正な養育費が算定できません。相手方に罰則付きで財産開示を強制する制度があり、2020年4月から罰則が強化され懲役刑も科されるようになりましたので、実効性が高まりました。

さらに、せっかく合意をしたのに支払われないという相談もよくあります。民事執行法が改正されて今年5月ころからの施行となりますが、銀行に問い合わせをすれば、相手方が預貯金をいくらしているのか教えてもらえるようになりました。これにより相手方の銀行口座を差し押さえることが可能となり、確実に養育費を支払ってもらえるようになります。ただし、制度を利用するには細かい手続き要件などを備える必要がありますので、弁護士にご相談されると良いと思います。

<法律相談>売掛金の回収~早めのご相談が解決の鍵です~

弁護士 加藤 幸

取引先からの売掛金の支払いが遅れている、売掛金を請求してもなかなか支払ってもらえない、といったご経験はありませんか。

売掛金の支払いが遅れていても、「長年の取引がある相手だから請求しにくい」、「電話での請求以外にどう対応すればいいのかわからない」といった理由で、請求が後回しになってしまっていることも多いと思います。
しかし、早めに対応を取らなければ、未回収金額は増えていきますし、未払いの原因が取引先の経営状況の悪化にある場合には、回収の可能性も低くなっていき、遂には取引先が倒産して全く回収できなくなってしまったという事態になる可能性もあります。

売掛金の回収には、早期に請求書を発送し、すぐに支払えない場合には新たな支払期限の合意をしたり、一括で払えない場合には分割払いの合意をするなどして、回収を確実にすることが大切です。また、話し合いによる解決が難しい場合には、裁判を起こす必要があります。裁判を起こす場合には、契約書や見積書、発注書など請求金額を証明する資料を残しておいたり、回収のための差押えの対象となりうる財産を調査しておくことも大切です。どの場合でも、弁護士のアドバイスが必要な場面が多いですし、弁護士に相談することで、余計な手間や時間、ストレスを軽減することもできます。

早めの対応が解決の鍵です、お心当たりがある場合は、一度、城北法律事務所にご相談ください。状況に応じて適切なアドバイスを行い、解決に向けた道筋をご提案いたします。もし、請求額が少額で弁護士に依頼すると費用倒れになるという場合は、相談の際に率直にご説明いたしますし、その場合でもご自身で対応される場合の進め方や注意点などをアドバイスいたします。

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