城北法律事務所 ニュース No.84(2021.8.1)


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目次

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立ち上がって声を上げる人々
‥‥大震災と福島第一事故からの10年

弁護士 菊池 紘

10年前に弁護士団体・自由法曹団の東日本大震災対策本部長として、宮城と岩手の被災地を回りました。すべてを流された陸前高田では、海岸線まで何一つない大地の広がりを前に、言葉もなく立ち尽くすしかできませんでした。国の責任を問い賠償額の不足を争う、数多くの裁判の原告は1万2000人を数えます。なかで生業裁判の原告は2陣を併せて5018人になります。福島の人々5000人あまりが立ち上がったのは、その一人ひとりが、福島第一原発の爆発によりこのうえない苦痛に苛まれたのに、国も東京電力もこの苦難に全く責任をとろうとしなかったからです。こうした不正義は許されないとの怒りから裁判に訴えました。

この10年の間の変化として、人々が立ち上がって行動し発言するようになったことがあげられます。ヨーロッパと異なり静かで行動に出ないとされていた人々が、元気よく声を上げるようになりました。初めに広がったのは「原発ゼロ、再稼働反対」の高まりでした。その高揚を引き継いだのは、2015年の津々浦々からの「憲法9条を守れ、戦争法反対」の行動でした。「戦争法絶対反対」のコールが国会を包囲しました。多くの所員も手造りプラカードをもって通いました。夏には12万人が霞が関を覆いつくしました。安保法制が強行採決された9月19日の深夜に国会前では「野党は共闘」というコールが夜空にこだましました。そしてこの4月には北海道、長野、広島で野党共闘は自・公に連勝しました。7月の東京都議選でも野党の共闘で議席を大幅にふやしました。また今ジェンダー平等を求めるうねりが広がっています。

安保法制の審議で対立が激しくなるなかで、首相は論理的な判断を嫌い、質問に答えようとしませんでした。意図的に論点をずらし、ほしいままの答弁をくり返したのです。これが「ご飯論法」と批判されましたが、問いに答えないでとにかく時間を稼ぐ。恬として恥じないで、誰も責任をとろうとしない。謝罪もしない。こういったことがほかの問題でも見られるようになりました。この論法は、今日のオリンピックとコロナをめぐる論議でもくり返されています。識者はこうした事態を「説明せず、説得せず、責任をさける」3S政治と批判しています。

生業裁判で仙台高裁の判決が言い渡されたのは昨年9月末です。判決は国と東電の責任を厳しく追及しました。その夜のNHK解説委員の発言は、大方のマスコミの受け止めを代表するものでした。解説委員はつぎのように述べています。「あと半年足らずで、原発事故から10年となります。・・・・判決は、失われるものの大きさに照らせば事故につながる確率が低いように思えても、『想定外』として無視するのではなく、対策をとるべきだという厳格な考え方です。この判断を、私たちは真摯に受け止めるべきではないでしょうか。そして、今回の判決は、裁判という形で、被災した住民たちが、自ら声を上げたことで示されたものだということを、私たちは決して忘れてはいけないと思います。」と。ここでは、立ち上がって声を上げる人々が国政の無責任を正し、歴史を進めることを確認できます。