城北法律事務所 ニュース No.84(2021.8.1)


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目次

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<事件報告>無拠出の障害年金の逸失利益性障害者が交通事故で死亡
「もらえたはずの障害年金は損害にならない」でよいのか

弁護士 種田 和敏

皆さん、「逸失利益」という言葉をご存知でしょうか?

「逸失利益」とは、本来、得られるべき利益が、何らかの理由によって失われてしまうことをいいます。弁護士の仕事をしていて、よく出てくるのが交通事故の逸失利益です。具体的には、交通事故によって、後遺障害が残ったり、死亡したりして、本来あるべき利益(収入)が、失われてしまったので、失われた収入を損害として賠償請求することがあります。この交通事故の逸失利益について、収入が多い人と収入が少ない人で、賠償額に違いが出ることは、仕方ないことだと思いますが、生まれながらに障害を持つ人が交通事故で死亡した場合、その被害者が生きていれば、障害年金を受給していたはずなのに、その逸失利益が0円だとしたら、違和感を覚えませんか?

私は、生まれながらに障害を持つ方が亡くなった交通事故の裁判を担当しています。私は、この裁判の原告、つまり亡くなった被害者の相続人の代理人です。この裁判での争点は、生まれながらに障害を持つ方が受給する障害年金が逸失利益として認められるかということです。

この点、最高裁判所は、年金について、事故がなければ、その後も年金を受給することができたので、年金の逸失利益性について、原則として肯定しています。他方で、最高裁判所は、平成11年10月22日、保険料が支払われていない年金(無拠出の年金)について、一般に逸失利益の算定の基礎にはできないとするように読める判決をしています。生まれながらに障害がある方が受給する年金も、無拠出の年金ですが、現状において、無拠出の障害年金に関する最高裁判所の判決はありません。

私の依頼者は、無拠出の障害年金の逸失利益性が肯定されなければ、最高裁判所まで争うつもりですが、裁判は、地方裁判所(第一審)の段階で、先日、摂南大学の城内明准教授の意見書を提出しました。この意見書も踏まえると、①平成11年の最高裁判所の判決が、あくまでも、そのケースを解決するために出された判決で、無拠出の年金一般に妥当する判決ではないこと、②いわゆる3号被保険者(サラリーマンの専業主婦など)の老齢年金についても、無拠出の年金であるにもかかわらず、最高裁判所が逸失利益性を肯定していること、③最高裁判所が採用する差額説(事故がなければ得られたはずの収入と事故後の収入の差額を損害賠償できるとする説)によれば、問題になる収入について、無拠出か否かは問題にならないこと、④事故当時、無職の者や専業主婦であっても、平均賃金での逸失利益が認められるにもかかわらず、被害者が偶然、無拠出の障害年金を受給する者だったことにより、逸失利益に関する賠償額が0円になることは、平等ではなく、加害者を利するだけであり、正義に反することなどを挙げ、無拠出の障害年金にも逸失利益性が肯定できることを主張しています。

この問題の根底には、障害者差別があると思います。そもそも、この間、無拠出の障害年金の逸失利益性について、最高裁判所が判断したこと自体、驚きでしたし、障害者やその家族が声をあげることの難しさを痛感しました。皆さんによい報告ができるよう頑張ります。