城北法律事務所 ニュース No.85 2022 新年号 (2022.1.1)

目次

借地借家のご相談はお任せください
─よくあるご相談について─

弁護士 種田 和敏

田見高秀弁護士と一緒に、東京借地借家人組合連合会の常任弁護団の一員として活動している関係もあり、主に賃借人の方からのご相談を多く受け、専門的な対応が可能です。

今回は、よくあるご相談について、いくつかご紹介したいと思います。

立退き(明渡し)

立退きを請求される理由には、契約違反と契約期間の満了があります。

契約違反については、たとえば、賃料の支払いが1か月遅れたからといって、直ちに契約解除になるわけではありません。裁判官から見て、これ以上は、契約を続けていけないほどに、借主が契約違反をしなければ、立退きは認められません。もちろん、契約に違反しないことが第一ですが、契約に違反してしまった場合でも、すぐにあきらめる必要はありません。

また、契約期間の満了については、法律により、賃貸人が契約しないと言っても、原則として、契約は更新されます。次は更新しないと言われても、認められないことも多くあります。また、例外的に、更新ができない場合でも、立退料の交渉などもできます。

更新料

更新料は、当然に払うものだと思っている人も多いと思います。

しかし、契約書に記載がないと、更新料を支払う義務はありません。借家の場合は、ほとんどの契約書に更新料の記載はあると思いますが、借地の場合は、記載がないことも多いと思います。また、記載があっても、その記載が、たとえば「相当の更新料を支払う。」などと抽象的な記載にとどまる場合は、更新料の支払い義務はありません。更新料を支払わないことに躊躇を覚える方もいるかもしれませんが、更新料は、当然に支払うものでも、賃貸人が一方的に決めるものでもありません。

賃料増額

賃料は、あくまでも当事者の合意で成立するものなので、変更するのも、原則として合意が必要です。そこで、賃貸人が高額な増額請求をしてきた場合には、拒否することもできます。できれば、話し合いをすべきですが、話し合いがまとまらなければ、賃貸人は、調停や裁判を起こして、判決で増額を目指す場合もあります。ただ、それは、賃貸人にとっても、簡単なことではないので、話し合いがまとまらなくても、焦る必要はありません。また、継続する契約の賃料は、新たに始まる契約の賃料よりも低額であることが通常ですので、周辺の賃料と比較して安いから増額すると言われても、慎重な検討が必要です。

相続

賃借権も権利です。借主が亡くなった場合、賃借権も相続されます。そのため、契約者が亡くなったからといって、家族が出ていかなくてはならないということはありません。また、契約者が亡くなり、相続人が新しい契約者になる場合に、賃貸人が名義書換料などの名目で金銭の支払いを求めることがありますが、法的には、相続に伴う契約者の変更で、何らかの支払いがあることは、原則としてないので、注意してください。

なお、借地権については、建物を賃貸したり、借地権自体を第三者に売ったりすることも可能ですので、場合によっては、検討すべきです。

おわりに

上記の例に限らず、借地や借家の問題でお困りの場合は、お気軽に、ご相談ください。

債務が多額な場合の相続と相続人が損害を受けない手続き
─限定承認と相続財産の破産─

弁護士 湯山 花苗

1.限定承認とは

限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をする相続人の意思表示をいい、留保付きの相続の承認です(民法922条)。限定承認の申述が受理されると、限定承認者の中から家庭裁判所により職権で相続財産管理人が選任され(民法936条1項)、相続財産管理人が相続財産の清算及び清算に必要な一切の行為を行います(民法936条2項)。

2.任意の清算が進まないときの手段
―相続財産の破産―

限定承認者または相続財産管理人は、被相続人の預貯金や株式、不動産などを換価して、相続債権者に対し弁済することで清算するのですが、相続開始前から被相続人が係争当事者として判決を受けて債務名義がある場合、相続債権者としては被相続人が死亡したことで債権回収が満足にいかないことをおそれ、強制執行手続を実施してくることがあります。限定承認者または相続財産管理人は、公告期間満了前において、公平な弁済を確保するために、弁済期の到来が認められる債権であっても、弁済を拒むことができます(民法928条)が、民法927条の請求の申出期間満了後であれば、弁済拒絶権は行使できず、強制執行手続は進んでしまいます。

このような不動産競売事件と限定承認の関係について、判例は、請求異議訴訟等の提起に伴う執行手続の停止がない限り、民事執行法の強制執行手続による配当をすべきという立場をとり(大阪高裁昭和60年1月31日判時1155号269頁)、配当額の返還を請求することはできないとしています(東京地裁平成3年6月28日判時1414号84頁)。特に、この平成3年判決では、結論として債務名義を有する一般債権者に配当がなされても、法が限定承認の清算手続と強制執行手続の調整を図っていない以上はやむを得ないとしています。このことからすれば、現在係属中の不動産執行手続により、相続債権者に配当がなされれば、この配当を限定承認の清算手続の一部として弁済したという見解はとれず、公平な弁済を徹底することができないことになります。

そこで、このような場合は、「相続財産の破産」という手続きをとることをおすすめします。改正前破産法では、旧136条2項で相続財産の破産申立が義務として課されていましたが、任意の清算手続である限定承認の弁済であっても、問題なく債権者が弁済を認めることがほとんどで、破産手続によらなくても問題となることが少なかったため、破産手続を義務としないよう改正されました。このことから、現在においても、偏頗弁済のおそれがある場合には、財産管理人の責務として破産申し立てを行うことがもっとも公平な弁済をおこなうことになりますので、限定承認者及び相続財産管理人は、限定承認の弁済が困難であれば破産申立てを行うべきでしょう。

3.本を出版します!

今回の相続財産の破産に関する手続きを含め、相続の一般的なことや、遺言の例文を記載した『依頼者の争続を防ぐためのケーススタディ 遺言・相続の法律実務』〔仮〕を共著で出版します。本屋で見つけてくださるとうれしいです。相続・遺言に関するご相談もお待ちしております。