城北法律事務所 ニュース No.85 2022 新年号 (2022.1.1)

目次

特集 新型コロナウイルスと憲法

自粛と補償

弁護士 和田 壮一郎

新型コロナウイルスの感染者が落ち着きを見せていますが、皆様、緊急事態宣言の期間中は、職場等で急な出勤停止などを強いられ、ストレスを感じた方も多かったのではないでしょうか。

新型コロナウイルスを伴う緊急事態宣言が幾度となく、発令されてきました。自公政権は、「貧困は、自己責任」とばかりに当初は何の補償も用意していませんでしたが、野党の要求を皮切りに、最初の一人10万円の定額給付金、持続化給付金など一部の補助金は創設するに至りました。しかしながら、その規模や内容は十分なものとはいえませんでした。

持続化給付金も支給が数か月も遅れたことを問題として覚えている方も多いのではないでしょうか。この間、多くの中小零細企業の売上げが下がり、危機に瀕してしまいました。労働者も自宅待機を余儀なくされ、給与が下げられた方や、企業の状況によっては失業を余儀なくされた方もいらっしゃいます。

大学生をはじめ学生の中にはアルバイトができなくなり、学費が払えなくなり退学せざるを得なかった方もいらっしゃると報道されています。

このように現在の政府が行っている新型コロナウイルス対策は、小池都知事の度重なる記者会見に象徴されるように「お願い」という形式で、事実上国民に半ば強制的に「自粛」を要請しながらも、あくまでも「自粛」は国民の自発的な行為なので、その経済的損害に対しての損失の補填はしないことを前提とするものでした。

新型インフルエンザ対策特別措置法には、補償をする制度は用意されていません。

今回のように、国や公共団体が適法な行政活動の結果、特定の個人に発生した経済的損失を補填する制度を損失補償といいます。具体例としては、公共事業等で自分が所有する土地を収用された際にその代償金をもらえるなどが挙げられます。損失補償制度は、個別の法律に定められることが多いですが、定められていない場合も、憲法第29条第3項に「私有財産は、正当な補償の下に、これを用いることができる」という規定がありこれも損失補償制度の根拠となっています。

今回は、感染防止という公共の福祉のために、自営業者に自粛を要請していましたので、損失補償が本来は必要なはずです。

損失補償制度は、本来は措置法に定められるべきでした。しかしながら、法律上定められていなくとも、憲法上損失補償請求ができないわけではありません政府は今からでも自粛を要請した自営業者をはじめ国民に適切な形での補償制度を設けるべきでしょう。 野党が「自粛と補償はセット」だと主張していました。私としては時の政権が国民の困窮に寄り添えるのか冷静に見極めたいと思っております。