城北法律事務所 ニュースNo.89 2024新年号(2024.1.1)


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特集 ジェンダー問題
婚姻制度から見るジェンダー問題
~選択制夫婦別姓と同性婚について語る~

弁護士 深山 麻美子/弁護士 加藤 幸/弁護士 和田 壮一郎

和田 世界経済フォーラムが公表している2022年のジェンダーギャップ指数(男女格差を図る指数)において、日本は146カ国中116位となっており、男女格差が大きいと指摘されていますね。

加藤 国連の女性差別撤廃委員会からも、夫婦別姓制度の創設や性的少数者への配慮など様々な問題が指摘されています。

深山 夫婦別姓制度については、だいぶ前から議論はされていて、今から27年前の1996(平成8)年に、法務省・法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を提案しています。その内容を簡単にいうと、今の民法では夫婦は同一の姓を称することを義務付けられていますが、提案では夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を称することも選択できる、というものです。

和田 夫婦それぞれが婚姻前の姓を選択した場合、生まれた子どもの姓はどうなりますか。

深山 提案では、婚姻の際に、子が生まれたら夫と妻のどちらの姓を称するか決めること、また兄弟の姓は統一するとしています。

加藤 夫婦別姓制度については、子どもが親と異なる姓を使用することで、いじめにあったり、子どもの気持ちが屈折したり、家族の結びつきが弱まるのではないかという不安があるとして反対する意見もありますね。

深山 新しい制度には不安がつきものですが、世界で夫婦同姓制度をとっているのは今や日本だけと言われています。姓の選択が法で定められ、きちんと公教育等でアナウンスされれば、子どもはちゃんと理解し、柔軟に順応する能力があると思います。家族の結びつきは姓が同じか違うかではなく、日々の生活の中で相互の愛情に基づいて確立していくものでしょう。

和田 27年前の提案がいまだに導入できていないのは、世論が夫婦別姓を望んでいないということでしょうか?

加藤 2022(令和4)年3月に法務省が実施した世論調査よると、①選択的夫婦別姓制度の導入②旧姓の通称使用の法制度の創設、③夫婦同姓制度維持のいずれかを希望するかという質問に対し、18歳から29歳の女性のうち45.7%が①を、43.3%が②と回答しています。③と回答したのは10.4%に止まりました。30代でも③と回答したのは13.1%、40代でも15.2%です。

和田 若い世代では、夫婦同姓維持を希望する女性は10%程度だったのですね。男性の回答はどうだったのでしょうか?

加藤 男性でも夫婦同姓の維持を希望すると回答したのは、18歳から29歳で22%、30代は13.8%、20代で20.8%となっています、女性と比べると夫婦同姓維持を支持する割合は高いですが、それでも2割程度です。

深山 結婚する際に姓を変えるのはほとんど(9割以上)女性(※ⅰ)ですが、男性にも夫婦別姓制度についての理解が進んでいるようですね。

加藤 そうですね。市民の間では、夫婦別姓制度への理解が広まっているのに、なぜか法改正は進んでいないというのが現状です。

和田 現状を変えようと、夫婦同性を義務付けている現在の法律は、憲法13条(個人の尊厳の尊重、幸福追求権)、14条1項(平等原則)、24条1項及び2項(婚姻は両性の合意のみで成立)等に違反するとして、裁判を起こした人たちもいます。ただ、2015(平成27)年(※ⅱ)及び2021(令和3)年(※ⅲ)の最高裁判断は、いずれも夫婦同姓を義務付ける現民法制度は、憲法13条、14条、24条に違反せず合憲というものでした。

深山 どうして最高裁は、合憲と判断したのでしょうか。

和田 大きな理由としては、立法裁量論といって国民の理解を得つつ国会で議論して決めてくださいということです。

加藤 うーん、国会の議論が遅々として進まないために、裁判に訴えたんでしょうけど。

和田 ただ、最高裁も、長年使用してきた姓を婚姻の際に改める者の中には、アイデンティティの喪失感を抱いたり、社会生活上の不利益を被っていることに言及はしています。

憲法第24条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」として、婚姻の自由と夫婦の平等を保障しています。2021(令和3)年の判決では、夫婦の名字を同じにしないと結婚を法的に認めないという制限を課すことは合理的ではないと意見表明をしている裁判官もいます。私は、この裁判官の意見に賛同します。

深山 夫婦別姓制度は、夫婦同姓とするか夫婦別姓とするかを選択できるという制度ですから、夫婦同姓が良いと考える人は、同姓を選択することができます。各自が自分の婚姻観、家族観に基づいて姓を選択できるようにしてほしいです。

加藤 婚姻により姓を変えることで自分のアイデンティティを喪失すると感じる人もおり、夫婦同姓しか認めない現在の制度は、自分の気持ちに反して姓を変えるか、法律婚を諦めるかという重い決断を迫るものとなっています。これは通称使用制度の創設ではカバーできない問題です。社会の理解も進んでいますし、夫婦別姓制度を創設する時期
に来ているのではないでしょうか。

和田 また、いわゆるLGBTQ(※ⅳ)の方への差別や同性婚を婚姻制度で認めていないことも問題ですね「結婚の自由をすべての人に」訴訟という法律上の性別が同じカップルが結婚できないことを憲法違反だと問う裁判が各地で進められています。2023(令和5)年6月8日現在、5つの裁判所で判決が出ており、うち4つで違憲判決がでています。

深山 でも、政治の動きは鈍いですね。政府は裁判の結果を注視すると述べるだけで、国会も法案の審理がなされているわけではありません。

加藤 そうですね。たとえ自分自身が出生時に割り当てられた性別に違和感を抱いておらず、かつ性的指向が異性に向いているいわゆる性的マジョリティだとしても、性的マイノリティの人々が日々の生活で苦しんでいるのは、性的マジョリティの人の多くがこうした問題に無関心で差別を放置したからという側面があります。性的マイノリティだけの問題ではなく性的マジョリティの人も同じ社会で生きる当事者という気持ちでいたいですね。

深山 男性だから女性だからかくあるべしとか、婚姻はかくあるべし、といった国や社会からの押し付けによるのではなく、各人それぞれが、まさに今社会に生きる当事者として、どのような婚姻を選択したいのか、その意思が相互に尊重される社会と法制度を実現していきたいですね。


※ⅰ 2016(平成28)年度に厚生労働省が発表した統計によると、妻が夫の姓に変更した夫婦が全体の96%
※ⅱ 最判平成27年12月16日
※ⅲ 最判令和3年6月23日
※ⅳ 「Lesbian(レズビアン)」、「Gay(ゲイ)」、「Bisexual(バイセクシュアル)」、「Transgender(トランスジェンダー)」、「Queer(クィア)/Questioning(クエスチョニング)」の頭文字を取って名付けられた、幅広いセクシュアリティ(性のあり方)を総称する言葉