城北法律事務所 ニュース No.81(2020.1.1)

〈事件報告〉生活保護基準切り下げに待った!新生存権裁判東京

弁護士 田見 高秀

憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と書かれています。基本的人権としての生存権保障に反する国の生活保護基準引下げに対して、取消し・国家賠償を求めて、全国で数多くの裁判が闘われています。私が参加している新生存権裁判東京の状況の報告と一弁護団員としての感想を一言述べさせていただきます。

政府が2013年から3年間にわたり行った生活保護基準の引下げは生存権を保障した憲法25条に違反するとして、2018年5月14日、39名の生活保護利用者が、東京地裁に提訴しました。現在では56名の原告となっています。同種の訴訟は既に東京を含む全国で起こされており、この提訴により全国の原告数は1000名を超え、その後も全国で原告の数は増加しています。

2012年、当時野党であった自民党は、芸能人の母親の生活保護の「不正受給」問題(実際は不正受給ではありません)などを利用して、生活保護バッシングを煽り、生活保護費10%カットを公約に掲げて選挙を行いました。

そして、政権に復帰すると翌年から公約どおり生活保護基準を引下げました。しかし、「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利は憲法が保障する基本的人権であり、政権与党の選挙公約であっても、憲法に反して生活保護基準を引き下げることは許されません。

ところが、政府は、生活保護基準に関する専門機関の検討結果を逸脱し、デフレ調整と称して物価の“データ偽装”まで行って、基準引下げを強行したのです。 

生活保護費削減分670億円のうち、580億円が「デフレ調整」分とされていますが、そもそも生活保護費は水準均衡方式の下では、既に物価変動も踏まえて改定されており、これに加えデフレ調整をする理由などないことを、原告・弁護団は一貫して主張してきました。

裁判官もこの原告側の主張を理解して、被告国に「デフレ調整」をすべき合理的理由を説明するようこれまでの法廷でくりかえし求めていますが、被告国は回答ができず、答弁不能になっています。

2019年11月6日に第5回裁判期日があり、来年はいまのところ1月15日、3月11日、5月25日の3回の裁判期日が入っています。

被告国が生活保護費の減額根拠を取り繕うのは不可能で、国の主張は既に破綻しています。

本裁判は、国民の貧困に対する国の非道な姿勢・政策に対し、基本的人権保障の観点から、待ったをかける非常に大切な裁判であると考えています。

より良い未来にむけ来年も頑張りたいと思います。